(第29回)大手、安定志向の学生の意識をどのように引き付けるか?(後編)

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(第29回)大手、安定志向の学生の意識をどのように引き付けるか?(後編)

採用プロドットコム株式会社
 ブランドとは「心理的価値」である。採用戦略を立案する際も“採用ブランディング”という言葉が用いられることは多い。では中小・中堅企業に採用ブランディングは必要なのか?
 答えは「YES」だ。ただし、何百人の学生を採用するために何万人もの学生の心理的価値を高めようとする大企業の採用ブランディングは、中小・中堅企業には必要ない。
 では中小・中堅企業はどのような採用ブランディングに取り組むべきなのか?
 大手企業とはそもそも会える学生数の桁が違う中小・中堅企業では、前回触れたように、少数の学生の心理的価値を高める密度の濃いコミュニケーションに徹底して取り組むことが効果と効率を追求できる最も確かな方法なのだ。

●密度の濃いコミュニケーションもすべては学生とのわずかな接点が起点となる

 就職ナビに採用情報を公開している企業はおよそ1万社。そして、リクルートワークス研究所が発表した2010年度の新卒求人数を新卒求人倍率で割った約44万人が就活生だと仮定すれば、就活生一人に対する求人企業の組み合わせは天文学的な数字になる。
 学生は一部の大企業の社名は知っており、事業内容についても表面的には理解しているが、1万社の求人企業の大半は事業内容やサービス、技術はおろか社名すら認知していない。中小・中堅企業が何らかのプロモーションや人脈・縁で、学生と接点を持てることじたい僥倖といえるような状況なのだ。

  採用市場にあって他の市場ではあまり当てはまらない特徴のひとつに、業界を横断して、大手有名企業も中小・中堅企業も同じ条件で優秀な人材の獲得競争に参加できることがあげられる。
 サッカーに例えるなら、天皇杯で地方のクラブや高校生チームがJ1に所属するプロクラブや大学チームから大金星をあげるような痛快さを、中小・中堅企業の担当者は実感できる機会があるというわけだ。

 筆者がかつて採用コンサルティングでかかわった某システム開発会社は、選考過程の評価が高い学生ほど、人気企業ランキングの上位にランクインする生損保やメガバンクと競合する傾向があった。会社の規模や知名度で判断すれば、正直、まったく勝ち目のない競合先であったが、驚くべきことにこの企業は五分五分とはいわないまでも、3割くらいの確率でこの勝負をものにするのである。この会社は、採用チームの組織作りから、予算の編成や執行まで、採用を経営戦略のど真ん中に置いている。採用を通じた経営参加を全員に促すような取り組みで、第三者の視線で冷静に見ても採用をモチーフにした実践的な経営・マネジメント教育をまざまざと見せられているような思いだった。
 ビジネスシーンではあり得ないバッティングや競合…これもまた、採用シーン独特の面白さでもあり、難しさでもあるのだ。

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