クックパッド"分裂"、急成長にブレーキも 創業者が経営方針を巡り、現経営陣と対立

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佐野氏が経営トップの座を穐田社長に引き継いだのは2012年5月。発表資料には佐野氏が「陣頭指揮を取り、世界戦略と技術開発に集中する」ことが交代の理由に挙げられていた。

その後、6月の決算説明会で、穐田社長は健康や美容に加え農業なども取り込む、「食のプラットフォーム」を目指すと宣言した。佐野氏も当然、こうした方針を把握していたはずだ。

これ以降も穐田社長は、知育アプリや電子書籍、結婚式場口コミサイトなどに手を広げつつ、米国やスペインのレシピサイト買収など、海外展開を進めてきた。

提案が通ったとしても、前途は多難

ではなぜ、佐野氏はこのタイミングで異議を唱えたのか。考えられるのは、先行投資に対する意識の違いだ。

佐野氏は米国に移り、英語版レシピサイト事業に注力してきたが、15年度の月間利用者数は約60万〜90万程度と苦戦が続き、テコ入れが必要な状況。しかし、毎年、成果を求められる穐田社長は、長期化しそうな先行投資に消極的だったのではないか。この点で意見の衝突があったとしても不思議ではない。

今後、委任状争奪戦になった場合、議決権比率から佐野氏が有利なのは間違いない。ただ、取締役刷新の人事が通ったとしても、前途は多難だ。穐田社長を支持する人材の流出など、経営を揺るがす問題に直面する公算は大きい。

ユーザーに喜ばれるサービスを追求し、レシピサイトに熱を与え続けた佐野氏と、収益力の強化を着実に進めた穐田社長。「二人が別々の役割を担って全体が成長していた。最強のタッグと思っていたのだが……」(証券アナリスト)。ネット業界を代表する成長企業は、急減速しかねない事態を迎えている。

「週刊東洋経済」2016年2月6日号<1日発売>「核心リポート03」を転載)

山田 泰弘 東洋経済 記者

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やまだ やすひろ / Yasuhiro Yamada

新聞社の支局と経済、文化、社会部勤務を経て、2014年に東洋経済新報社入社。IT・Web関連業界を担当後、2016年10月に東洋経済オンライン編集部、2017年10月から会社四季報オンライン編集部。デジタル時代におけるメディアの変容と今後のあり方に関心がある。アメリカ文学、ブラジル音楽などを愛好

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