ニッポン宇宙開発元年--夢とビジネスの狭間で

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15号機には輝汐のほかにも、東大阪の中小企業が製作した「まいど1号」など6個の超小型衛星が相乗りした。H2Aを打ち上げた三菱重工の宇宙機器部・淺田正一郎部長にとって、今回のプレッシャーは格別だった。「韓国から商業受注した後の初打ち上げ。しかも、皆さんの夢を乗せた小衛星を運んでいる。今回は失敗できない、と」。轟音とともに、心配は吹き飛んだ。

H2Aは6号機の失敗の後、これで9回連続して成功。信頼度の指標とされる再打ち上げの保険料は、欧州の最強ロケット「アリアン5」と肩を並べる水準にまで下がった。

三菱重工は02年、H2Aの製造プライム会社となり、一昨年の13号機から、打ち上げを含めH2A事業を丸ごとJAXA(宇宙航空研究開発機構)から引き継いだ。では、連続成功は早くも表れた民営化効果だろうか。そうではない。淺田部長によれば、「数」である。

日本の大型ロケットは1975年、米国のデルタロケットの技術をそっくり移植した「N1」から始まった。「N2」「H1」「H2」を矢継ぎ早に開発し、現在のH2Aは5世代目。開発主体のJAXAの思想は「より早く、より効率的に、世界最高水準へ」だった。技術の成熟を待つ間もなく、次の開発に取り組んだため、H2までは1機種当たりの打ち上げ回数が最大9機止まり。今回、H2Aで「やっと15機」となり“落ち着いてきた”のである。

開発費は、アリアンの1兆円に対して、H2・H2Aを合計しても約4000億円。H2Aは液体水素と液体酸素を燃料とするが、プリバーナーで“半燃え”にし、それを主燃焼室に送り込んで“キレイに”燃やす「2段燃焼サイクル」はスペースシャトルと同じ、世界トップ技術である。効率的に、日本が世界水準に到達したことは、間違いない。

だが、淺田部長は「はたと、これでよかったのか」と思う。ロケットとはつまり、衛星を軌道に運ぶ運送業だが、「H2AはF1マシンでクロネコヤマトをやっているようなもの」だからだ。欧州のアリアンはトラックだ。2段燃焼サイクルなどには見向きもせず、整備性・運用性に設計の最重点を置く。たとえば、徹底的な軽量化を狙うH2Aの燃料タンクのふたは四つ別々の設計だが、アリアンは四つとも同じ。

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