ニッポン宇宙開発元年--夢とビジネスの狭間で

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北朝鮮は「試験通信衛星」の打ち上げと称し、ミサイルの発射を強行した。北朝鮮のロケットの第1段は日本海に、第2段は日本列島を飛び越え、太平洋に落下した。

日本の宇宙産業界は、北朝鮮の打ち上げを複雑な思いで眺めている。もちろん、国連決議を踏みにじる暴挙は許せない。が、正直、ニンマリする一面がないでもない。

昨年5月に制定された宇宙基本法。そのポイントは「シーズ主導(開発中心)からニーズ主導(宇宙の具体的な利用と産業化)へ」、そして「安全保障上の宇宙の活用」だ。「安保」の視点が盛り込まれたのは、北朝鮮の脅威を強烈に意識している。

基本法は早期警戒衛星や情報収集衛星(IGS)など新しい「軍需」に道を開いた。宇宙政策の司令塔となる宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)の豊田正和事務局長が言う。「(打ち上げの)数を上げていく。予算も最大限増やしていきたい」。平成21(2009)年度の宇宙関係予算は前年比10・4%増の3488億円。伸び率は突出している。

「軍需」拡大より一足先に、国際市場でも凱歌が上がった。昨年末、三菱電機がシンガポール・台湾向けの大型通信衛星を受注し、年が明けると、三菱重工業が韓国航空宇宙研究院(KARI)から多目的衛星をわが国の大型ロケット「H2A」で打ち上げる契約を獲得した。衛星もロケットも、悲願の海外初受注だ。

米調査会社によれば、08年の日本の宇宙競争力は世界7位。中国、インドの下にランクされる。基本法と海外市場の開拓を発射台に、日本の宇宙産業は屈辱のランキングを跳ね返し、見事、ビジネス軌道に乗せることができるのか。

目指せ! 世界水準 開発に次ぐ開発

これが、本当の「天にも昇る」心地だろうか。1月23日、都立産業技術高専の石川智浩准教授は生徒12人とともにH2A15号機の打ち上げを見守った。15号機には生徒たちがはんだごてを握って製作した超小型衛星「輝汐(きせき)」が搭載されている。

「夢のよう。学生たちは種子島にいることも信じられず、地に足が着いていなかった」(石川准教授)。

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