【福澤武氏・講演】日本企業文化へのパラダイム転換(その5)

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東洋経済新報社主催フォーラム
「理念重視型経営が創る成長基盤とリスク管理」より
講師:福澤武

その4からの続き)

●どうしたら自然環境に負荷を与えない技術連関を提供することができるか

 話をもう少し現実に戻しますが、温暖化ガスの発生を無くすために使用する太陽エネルギー。この太陽エネルギーの利用については、日本は技術的に進んでいたのですね。今はドイツに追い越されたとかいう話ですし、フランスでは何年か後には各家庭に全部太陽電池を取り付けて、家庭の電気を賄うとか言っているようですので、研究は進んでいるのでしょう。日本も相当に進んでいるのですから、これを国家プロジェクトにして真剣に取り組む。こういうことをやれば、かなり太陽エネルギーの利用が進むのではないでしょうか。
 というのは、20年ぐらい前ならば、技術関係の人に太陽エネルギーの利用をもっと考えるべきだと言うと、「そんなことはコストがかかってどうしようもないんですよ」と相手にされませんでした。しかし一方でコツコツ研究している人がいたわけで、そのころに比べれば随分コストダウンできるようになりました。つまり、技術ってそういうことなのですよ。初めは高い。テレビだってそうでしょう。初めはものすごく高かったのです。それが徐々に安くなりました。
 だから太陽エネルギーの利用にしたって、コストが高いなんて言っていないで、地道にコツコツと真剣に取り組めば、戦時中に新兵器を造るために必死になってやっていた、あれぐらいの必死さで取り組めば、随分進むのではないですか? ちなみにそういう点では、戦争は技術がものすごく発達するのですね。だからって戦争をやるということではなくて、平和のときにあのぐらいの真剣さを持ったらどうなんだと、こう言いたいのです。

 環境というと、私の仕事は前述したように街づくりなのですが、これはまさに環境ビジネスです。実はこの会場も当社の設計ですが、先ほど申し上げた技術連関の中で、快適な環境を保っているわけです。一方でこういう技術連関で快適な環境を作るほど、自然環境に負荷を与えてしまう。これが問題なのですね。
 やはり昔に比べれば随分少ないエネルギーで快適な環境が保たれていますが、それにしたって化石燃料を使っているわけですよ。だからそこを一体どのようにやっていけばいいのか。我々は環境を提供するビジネスを行っているわけですが、どうしたら自然環境に負荷をなるべく与えないような技術連関を提供することができるか、これを真剣に当社としても取り組んでいるわけです。

 ちなみに今道友信さんが執筆された『エコエティカ 生圏倫理学入門』という本があるのですが、エコは環境という意味ですね。今道さんは、人間の生息する範囲、生息圏という言葉を使っています。エティカはethic、倫理ですね。だからこのエコエティカという言葉は今道さんが作ったラテン語です。
 今道さんという人は日本人で唯一国際哲学協会の会長を務めた世界的な哲学者です。生息圏の意味を略して「生圏倫理学」としているのですが、こういう技術連関という自然環境とは別の環境を作った中で、人間の倫理学を考えなきゃいけないのではないでしょうか。『エコエティカ 生圏倫理学入門』は、講談社の学術文庫から出ていまして、薄い本なのですが内容的にはものすごく濃いものです。倫理の行為の及ぶ範囲というものが非常に大きくなってきました。それから倫理の主体というのが大きくなりました。例えば企業です。団体や国家、そういう単位での倫理が、非常に強く求められるようになってきているわけですね。そういうことを我々は強く認識してやっていかなきゃいけないのではないでしょうか。そういうことが語られています。これは現代人の必読の書ではないかと思っています。特に経営者はこういう本を読んで、今の時代を考える必要があると思います。
その6に続く、全7回)
福澤武(ふくざわ・たけし)
慶應義塾大学法学部卒業後、1994年より三菱地所株式会社・取締役社長、2001年より同取締役会長、2007年より取締役相談役を経て現職。同相談役を務める傍ら、大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会会長、千代田区教育委員、日本アスペン研究所理事など幅広く活動。著書に『「丸の内」経済学』(PHP研究所)など。
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