【福澤武氏・講演】日本企業文化へのパラダイム転換(その4)

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東洋経済新報社主催フォーラム
「理念重視型経営が創る成長基盤とリスク管理」より
講師:福澤武

その3からの続き)

●技術連関の中での生活

 文化活動に加えて、この時代、企業にとって避けて通れない問題が「環境」です。どんな種類の企業であれ、環境問題を完全に無視することはできない時代だと思います。ところで環境といった場合、かつて人間にとってのそれは自然環境だけでした。ところが今や、自然環境のほかにもう1つの環境ができてしまいました。これを哲学者の今道友信さんは「技術連関」と言っています。技術の連関によってできあがっている環境です。産業革命以降、技術が非常に発達しました。そのためにいろいろな技術の連関によって環境ができあがったのです。
 今、みなさんがいるこのフロアもまさにその技術連関です。ここの照明は自然採光ではないですね。人工的な照明です。それから室温。これも人工的な空調で最適な温度にしている。それから私の声も、マイクが無かったら皆さんに聞こえないでしょう。そのほか始まる前に「携帯をマナーモードにしてください」などと注意があったか知りませんが、その携帯があるからとんでもなく遠くの人と話ができますよね。こういうものを技術連関と、今道友信さんが言っているわけです。
 今の先進国の大部分の人たちがこの技術連関の中で生活しています。昔は農家の障子を開けて入ると土間があって、ちょっと一段高いところに板の間があり、そこに囲炉裏が切ってある。そこに薪をくべてそこで煮炊きをするというような暮らしが農家でした。しかし今、そういう農家は少ないですよね。何かしら都会風な住宅になっている。これ技術連関の中での生活なのですね。

 それから建物の外に出たって、技術連関の世界ですよ。アスファルトで舗装されているから、雨が降っても土に水が染み込まない。以前は雨が降って土に水が染み込めば、その水が蒸発して気化熱でもって気温を下げるという作用があったわけですが、今はそういう作用がない。だからヒートアイランド現象はますますひどくなりましたね。住宅街でも、土の部分ってほとんどないですよ。これでは東京中がヒートアイランドになるのは、当たり前ですよね。

 私は今、丸の内で再構築をやっています。道路は水が染み込んで、中に溜め込むことができるような保水性にしようとしています。そうすると多少は気化熱でもってヒートアイランド現象を防ぐことができますね。今は丸の内の新しいビルは超高層ビルになっていますが、これをもし昔の仕様で造っていたら、ものすごくエネルギーを必要とするのです。しかし、今の技術であればそれに比べて3割ぐらいエネルギー・カットできているのです。
 例えば、オフィスには窓から自然採光が入るようになっていますが、そうすると太陽の光線がたくさん入ってくる昼間は、自然に照度が落ちるようにしています。それで電気をあまり使わないようにする。それから窓際に空調のエアカーテンのようなものを設置して、外気温の影響を少なくしている。そのほかにもさまざまな工夫をして、エネルギー削減ができるようになっています。こんな風に各企業が工夫をしていると思いますが、本当に必要なことですね。やはり環境問題に対して、必ず各企業なりの対応をしなければいけません。

●技術のコストダウン

 また、私はサスティナビリティ学というものを東大で立ち上げるというので、その委員会のメンバーにもなりました。学者先生たちは温暖化ガスの削減方法についていろいろおっしゃるのですが、私はそれを聞いて「それはいわば対症療法だ。もちろん対症療法も必要だが、しかし仮に今、一切の化石燃料の使用をやめて温暖化ガスが出なくなった場合、地球の温暖化は止まるのか。そういう研究をやっている人はいないのか」と思いました。「いや、研究している人はいます」ということでしたが、地球は温暖化ガスが無くなっても温暖化するのかどうか。今地球の長い歴史の生成の中で、温暖化に向かっている時期だったら、いくら温暖化ガスをゼロにしたところで温暖化するのですよね。そういうことに対する対策はどうなのですかと。我々はそこまで考えなければいけないのではと思うのですね。というのは、科学の発達は、そういうことにだって何かしらの対策を講じることができるようになるのではと私は思っているからです。
その5に続く、全7回)
福澤武(ふくざわ・たけし)
慶應義塾大学法学部卒業後、1994年より三菱地所株式会社・取締役社長、2001年より同取締役会長、2007年より取締役相談役を経て現職。同相談役を務める傍ら、大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会会長、千代田区教育委員、日本アスペン研究所理事など幅広く活動。著書に『「丸の内」経済学』(PHP研究所)など。
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