【福澤武氏・講演】日本企業文化へのパラダイム転換(その6)

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東洋経済新報社主催フォーラム
「理念重視型経営が創る成長基盤とリスク管理」より
講師:福澤武

その5からの続き)

●何も難しく企業倫理とは何かなどと定義を見つける必要はない

 ところで、企業単位での倫理とはということですが、それはどういうものかなどと、あまり難しく考える必要はないと思います。私はこの間、女性建築家の工藤和美さんという方の話を聴いたのですが、そこで一つ私が非常に印象深く頭に残った言葉があります。彼女が設計をするときには、「普通のこと、当たり前のこと、それに全力を注ぎます」と言っていたのです。
 企業倫理なんてまさにそうだと思います。企業も普通のことだ、当たり前のことだというものをしっかりやる。これだと思うのですね。何も難しく企業倫理とは何だなんていって、定義を見つける必要はないのです。これは誰でも、自然に人殺しをしてはいけないとか盗んではいけないとか、そういう倫理観を持っているわけですよ。それは当たり前のこと。そんな倫理というのは、時代を超えて変わらないことだと思うのです。

●精神こそ受け継ぐべき伝統

 ただ、習慣というものは時代とともに変わっていきます。私は社長時代に古くからの習慣、しきたりでも、それが今何の役にも立たない無意味なものだったら、「そんなものは捨てちまえ」と言ってきました。そのぐらいにしないと、なかなか悪しき伝統というか悪しき習慣というものは直らないので、極端なことを言っていたわけですけれど。つまらないことを伝統だなんて思って、こだわっていたらダメなのですね。

 伝統というものは、よく間違えることがあります。大先輩で素晴らしい人があるシステムを作ったとします。そうすると、このシステムはあの大先輩が作った素晴らしいシステムだということで、その形式だけを大事に守って、それが伝統を守ることだという錯覚に陥るのですよ。しかし守るべき伝統というのはそうではなくて、あの時代にそのシステムを作り出したというその精神なのです。その精神こそ受け継いでいかなければ、そして次の世代に伝えていかなければならない伝統のはずなのです。
 ところがその肝心なところを見ていないで、錯覚に陥ることって案外あるのですね。そういうことをやっていると世の中から取り残されてしまいます。伝統、形式的なものというのは時が経てば古くなるのですから、そんなものはもう捨ててしまっていいのです。その辺りの見極めをはっきりする。これも経営者としての大きな要素だと思いますね。

●技術の発達というのは時間の短縮、時間の短縮は思考時間の短縮です

 経営者というのは、それまでに日常でいろいろなことを学んで蓄積している感性や知性、知力、そういうものを総合してどうするかということを決めるもの。そうでなかったら、経営者なんか要らないのです。コンピューターだけで結論が出るものなら。でもそうはいかないですよね。今はコンピューターを使って資料はすぐできます。そういう点はものすごく便利です。考える材料もそれだけ増えていいのですが、ただ、できあがったその資料を見て考えるのが経営者。その資料を作る段階で、昔ほどあんまり考えなくなったのではないでしょうか。技術の発達というのは、これは時間の短縮ですね。時間の短縮というのは思考時間の短縮なのです。だから本当に気をつけないと、思考能力がどんどん衰えていくのではないでしょうか。ですから、そういう点で今のこの時代、技術連関の中での企業というのは、従業員に便利なコンピューターで仕事をさせることは効率的でいいのですが、きちんと考えさせないと大変なことになるのではないかと。経営者自身も考えるということを訓練しなければいけません。
その7に続く、全7回)
福澤武(ふくざわ・たけし)
慶應義塾大学法学部卒業後、1994年より三菱地所株式会社・取締役社長、2001年より同取締役会長、2007年より取締役相談役を経て現職。同相談役を務める傍ら、大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会会長、千代田区教育委員、日本アスペン研究所理事など幅広く活動。著書に『「丸の内」経済学』(PHP研究所)など。
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