この堀辰雄さんの名訳は、今は物言いがついているので、私は最近、ポール・ヴァレリーの原文からとり、「Le vent se lève il faut tenter de vivre 」と受験生のノートにお守りとして書くようにしています。
受験というある種極限状況にある生徒たちにかける言葉は、心に届き勇気を与えるものでなければなりません。飾り気などなくてもよく、相手のことを本当に思いやり、思わず出てきた言葉ならそれでいいのです。
これら以外にも、親や教師、友人の言葉が、受験生の背中を強く押すことになった例は多々あります。以前、東大合格者を取材した際にも、3人の東大生が「言葉の力」についてこんな話をしてくれました。
「不安の極地」から彼らを救った言葉
まずはAさんのケース。高校3年生の12月、センター試験対策が完璧ではなく、彼は焦りとともにとても辛い時期を送っていました。大学の附属高校に通っていたために受験を決意した時期が遅く、ほかの受験生と比べても勉強の進度がやや遅れていたのです。推薦で進学を決めている人が多い中で、受験勉強に集中する環境作りにも苦労していたと言います。
焦りがさらに焦りを生み、何をしていいのかわからずパニック状態に陥いっていた彼に、高校の教師がかけた言葉。
「ほかの人のことを気にしてどうする。試験に行くのは自分自身なんだぞ。勝つのも負けるのも自分自身。だから、自分にだけは負けるな」
彼は、人と比べ必要以上に焦っていた自分を反省しました。その日から、人に負けていようが、昨日の自分にだけは負けまいと決心し、無事に大学受験を乗り切りました。辛い経験を乗り越えたことは、自分への自信にもつながったそうです。
次はBさんのケース。 1月の上旬、センター試験が不安で仕方なく、数学の教師にその旨を相談したときのこと。不安が極限で、勉強もあまり手につかない中で言われた言葉が、忘れられないのだと言います。
「君は、いつもいつも『しなきゃ、しなきゃ』ばっかりだね。それでは僕はダメだと思う。それでは楽しめないし、結果もついてこないと思う。もっと自信を持つべきじゃないかな。そういう、『しなきゃしなきゃ』、っていうの、そろそろやめにしようよ?」
最初は「自分のことをろくに知りもしないのに、ムカついた」そうですが、その指摘はどう考えても図星で、あえて気付かないふりをしている部分に切り込まれたものでした。そして何より、教師の目には蔑むような色がまったくなく、自分を心底思ってくれていることがわかったそうです。
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