キムタクが擬人化されたキシリッシュを演じ、「味長持ち強化中」と掲げられたスローガンの前で、明治製菓の担当者に扮する芸人と掛け合いをする。
「味、長持ちにしたならオレの給料上げてもらわないと」
「ムリムリ。1粒で味長持ちってコトは、売上げ落ちるかもしれないんだよ」
「じゃぁ、何でそんなコトすんの!」
「知らないよ。時代じゃない?」
さらりと、「時代じゃない?」と流されているが、まさしくそれが今日の現実を表わしているといえないだろうか。消費者が求めているのは、従来以上のコストパフォーマンスであり、明確な価値の向上が売れるための必須条件となってきている。
そのお手本ともいえる戦略を一層加速したのが、ユニクロを展開するファーストリテイリングだろう。今度はFuji Sankei Business iの記事『「990円」ファストリ自信 激安ジーンズ、ジーユーに投入』を見てみよう。
ジーユー(g.u.)はユニクロより低価格な衣料を提供するためのブランドとして2006年の発足して以来、イマイチ成長の軌道に乗っていなかった。
その現状打破のために思い切った低価格戦略が打ち出されたのだ。これまで「ユニクロの3分の2程度の価格帯」を基本戦略としてきたが、ジーンズの990円に代表されるように新たな低価格戦略では、全商品の約8割がユニクロの半値以下になるという。
「価格を上回る価値」という時代の要請に対し、柳井社長は明確な戦略を提示している。
「ユニクロは(全国規模で販売される)ナショナルブランドの商品と比べても品質は高いが、最低価格では提供できない。まあまあの品質で低価格のものを求める人はジーユーでお願いしたい」
通常は製品の「価値」と「価格」は正比例の関係にある。低価格なものは価値が低く、高価格なものは価値が高い。それを「バリューライン」という。しかし、今日の時代の要請は、「バリューライン上で戦っていたのでは生き残れない」ことを意味している。バリューライン上にあるということは、消費者にとっては「アタリマエ」と映るからだ。
ユニクロは中価格・高品質という「高価値戦略」、ジーユーは低価格・中品質という「グッドバリュー戦略」で展開するということだ。つまり、価格以上の価値を提供せよという消費者からの要請に、低価格でも、中価格でも応えられるようにブランドのポートフォリオを明確に定義したわけだ。
菓子、車、アパレルと業態は違うが、激変する経済環境に適応するため、必死になっている。指し示すベクトルは一緒だろう。「価格以上の価値を提供し、消費者の財布の紐をゆるめる」。そのために、汗をかき、頭を使う。なぜか。
「時代じゃない?」
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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