30代半ばになり、結婚に向けて2つの推進力が働いた。ひとつは、もちろん就職である。都内にある研究所で終身雇用の研究員として採用されることが決まった。靖之さんは東海地方の山間部出身であり、長男として実家のことも気になるのだが、ぜいたくは言っていられない。この職に就けば奨学金を返済する目途も立つ。同時に、結婚して子孫を残したいという気持ちが急速に強まった。
もうひとつの推進力は、家族との古風な絆である。靖之さんと妻の真弓さん(29歳)との出会いは、親のつながりを介してのお見合いだった。正確には、靖之さんの母親の高校時代の同級生が世話好きであり、夫の姪っ子である真弓さんを靖之さんに引き合わせてくれたのだ。
親同士の相性がいいことは大きなメリットだった!
かつてのお見合いは靖之さんたちのように親や上司、地域の有力者による紹介によるものだった。メリットは話が早いことだ。
筆者のような「友人・知人」や結婚紹介所など「業者」による紹介の場合は、20回目ぐらいのお見合いでようやく「この人だ!」という相手を見つけても、お互いの家族が反対をしたりする。親の紹介であればそんな事態は起きようがない。後述するが、靖之さんは結婚をして子どもを作ってから、妻の両親との相性が良いことのありがたさを痛感する。
真弓さんは実家のある北陸地方の病院に勤務していたため、2人きりで会ったのはわずかに2回。靖之さんは「かわいらしい女性だな」と好印象は持ったものの、当然ながら男女関係を深めるには至らなかった。その直後、お互いの実家を両親と一緒に訪問することが決定。お互いの性格をちゃんと知る間もなく婚約をする流れになっていた。
「妻は結婚するまでは北陸の実家を出たことがありません。僕以上にマリッジブルーになっていたと思います。僕のことをおぼろげにしかわかっていないのに電話とメールだけで結婚式の準備をしているのですから。正直に言って、僕も仕事をしているような感覚でした。なんとか式を終えて、一緒に暮らし始めてから少しずつお互いのことがわかるようになってきたと思います」
真面目な話として聞いてほしいが、お見合いによる結婚は子作りの面でも有効だと思う。長年付き合ってほぼセックスレスになってから結婚して、「妊活」に悩む夫婦は少なくない。「お互いのことをほとんど知らないし、触れ合ったこともない。でも、嫌な感じはしない」という男女が一緒に住み始めたら、感動と歓喜の数カ月間で妊娠する確率が高いだろう。お見合い結婚が多かった時代に出生率が高かったのは早婚だけが理由ではないと筆者は思う。
真弓さんも結婚して2カ月後には妊娠をした。1人目は残念ながら流産をしてしまったが、そのさらに2カ月後には再び妊娠できた。ただし、また流産する危険が高まったために真弓さんは実家近くの病院に緊急入院した。
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