幸之助が強調した「ゼロから発想する勇気」 今あるものに継ぎ足そうとするな

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「トヨタの言うことをそのまま聞こう」

たまたまその検討会議をしている部屋にやってきた松下は、検討を重ねている社員の姿を見て言った。

「トヨタさんが要求する値引きはかなり厳しい。けれども将来の日本の自動車産業の姿を考えると、国際競争に勝たなければならん。この際トヨタさんの言うことをそのまま聞こうやないか。協力しようやないか。ここにある製品はないものと思って、まったく新しいカーラジオを一から作るという発想でやってみよう。

出来んと言えば、うちも成り立っていかないし、トヨタさんも成り立っていかない。それでは日本の国も成り立っていかないことになる。一企業という立場ではなく、国家のことを考えて、これに取り組まんといかん」

その結果、一年後には20%安くしてもなお10%の利益があるカーラジオが出来上がった。

ぎりぎりまでやってこそゼロに立ち返れる

日々の積み重ねとともに、その一方で、改善、改革をしていくときには、今あるものに継ぎ足すのではなく、全部否定してゼロから発想してみる勇気を持つことも重要である。そこから大きな飛躍が生まれる。

もっとも、最後に付け足しておこう。ゼロからの発想をする勇気を持つためには、普段から懸命の努力をしていることが絶対に必要なのだ。普段さぼっていれば、「あと少し継ぎ足せる」と思ってしまうのが人情である。ぎりぎりまでやっていればこそ、私たちはゼロにまで立ち返れるのである。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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