世界の99%を貧困にする経済 ジョセフ・E・スティグリッツ著/楡井浩一・峯村利哉訳 ~経済改革に向け七つの基本方針を提示
ケインズの師のアルフレッド・マーシャルは、経済学者に必要な資質は「冷静な頭脳と温かい心」だと説いた。だが、サッチャー政権とレーガン政権が誕生して以降、リベラリズムに取って代わって新自由主義思想が主流派の思想となり、リバタリアンが経済学界を席巻するようになると、多くの経済学者は市場こそがすべてだと主張する冷酷な市場至上主義者になり、“温かい心”を失ってしまった。
著者は2001年にノーベル経済学賞を受賞し、現在でも“温かい心”を持ち続けている数少ない経済学者の一人で、市場主義に異を唱え続けている。著者の博士論文のテーマは不平等だった。標準的な経済モデルで不平等の要因を説明できないと、別のモデルの模索を始め、アダム・スミス的な自由競争による市場主義に対する批判を強めていった。
現在も著者は貧富の格差の問題に取り組んでいる。そして「アメリカの不平等のほとんどが市場のゆがみを通じて発生し」、「アメリカで起こってきたことは世界中の多くの国でも起こっている」と指摘する。
米誌『ヴァニティ・フェア』(11年5月号)に「Of the 1%,by the 1%, for the 1%」と題する長文のエッセイを寄稿、貧富の格差の問題を取り上げた。同年9月にニューヨーク市で「ウォール街占拠運動」が始まり、それに参加した人々は「自分たちは99%を代表する」というスローガンを掲げ、富が超富裕層1%の人々に集中する現実を告発し始めた。この運動が、著者の影響を受けていることは間違いない。