佐藤優の「村上春樹の読み方」が深い、スゴい

100万部「多崎つくる」は、こう読み解ける

佐藤:アカの自己啓発セミナーの目標は「会社の思惑どおりに動きつつ、それでいて『私は自分の頭でものを考えている』と思ってくれるワークフォース(競走馬)を育成する」ことです。すなわち、次に引用する「世の中の大抵の人間」をつくるのが狙いです。

自己啓発セミナーの狙い

「おれが会社勤めからもうひとつ学んだのは、世の中の大抵の人間は、他人から命令を受け、それに従うことにとくに抵抗を感じていないということだ。むしろ人から命令されることに喜びさえ覚えている。むろん文句は言うが、それは本気じゃない。ただ習慣的にぶつぶつこぼしているだけだ。自分の頭でものを考えろ、責任を持って判断しろと言われると、彼らは混乱する。じゃあ、そいつをビジネスにすればいいじゃないかとおれは考えた。簡単なことだ。わかるか?」 
(同前、p213)

 

佐藤: そして、85%の人は、命令されるままに行動することで満足してしまうと指摘します。この85%の人たちが、アカの自己啓発セミナーのターゲットになるわけですね。

「でも研修を受けた人間が、みんな率直にディシプリンを叩き込まれてくれるわけじゃないだろう」
「もちろんだ。おれたちのプログラムをまったく受け付けない人間も少なからずいる。そういう人間は二種類に分けられる。ひとつは反社会的な人間だ。英語で言うアウトキャスト。こいつらは建設的な姿勢をとるものは何によらず、頭から受け付けない。あるいは団体の規律に組み込まれることをよしとしない。そういう連中を相手にしても時間の無駄だ。お引き取り願うしかない。もうひとつは本当に自分の頭でものを考えられる人間だ。この連中はそのままにしておけばいい。下手にいじくらない方がいい。どんなシステムにもそういう『選良』が必要なんだ。順調にいけば彼らはゆくゆく指導的な立場に立つことになるだろう。しかしその二つのグループの中間には、上から命令を受けてその意のままに行動する層があり、その層が人口の大部分を占めている。全体のおおよそ八五パーセントとおれは概算している。要するにその八五パーセントをねたにおれはビジネスを展開しているわけだ」
(同前、p215~216)

 

佐藤:先ほどの「型」の話でいうと、学校の教科書を読んで「型の知識」を身につけていくのは、まさにこの「85%」をつくっていく作業なんです。「自分の頭で考えなさい」と言いつつ、実際は組織に忠実な人間をつくっていく。

井戸:アカは明らかに85%のほうを相手に商売する「エリート」のほうの人間ですよね。

佐藤:ええ。組織に忠実なのはいいのですが、その中にあっても、本当の意味で「自分の頭で考えられる人間」になれるかどうかが大事です。それが「型」で終わるか、「型破り」までいけるかの差になります。

井戸:では、残りの15%のうちで、自分の頭で考えて行動するほうの「選良」つまり「エリート」のほうに行くためには、どうすればいいんでしょうか。

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