なぜ村上春樹は世界中の人々に「ささる」のか

村上作品の英訳者・ルービン氏、大いに語る

「村上さんには早くノーベル賞をとってほしい」というハーバード大のルービン名誉教授。もし村上氏と出会わなかったら「今とは違う頭脳構造を持っていた」と賛辞を惜しまない(撮影:梅谷秀司)
米ハーバード大学のジェイ・ルービン名誉教授は、作家・村上春樹氏の翻訳者としても知られる。実は、村上氏が世界で幅広い読者を獲得しているのは、ルービン教授なくしては語れない。翻訳者・研究者、そして友人として、なぜ村上作品が世界で愛されているのかを語る。(聞き手:井坂康志)

当初は村上作品に何の期待もしていなかった

――村上さんとの出会いは?

作品を知ってから四半世紀の付き合いになります。最初に出会ったのは1989年、『羊をめぐる冒険』がアルフレッド・バーンバウムの翻訳で、アメリカで話題になる少し前のことでした。

僕は村上さんの世界に入る前は、夏目漱石、芥川龍之介、国木田独歩など明治期の文学者を研究してきたのですが、特に漱石に見られるように心理の深いところにもぐりこみ、機微に触れる作家が好きでした。

1989年、『羊をめぐる冒険』の英訳が刊行される数か月前のこと、アメリカのヴィンテージという出版社から、村上さんのある長編作品が翻訳に値するか見てほしいとの依頼がありました。「世間でどんな駄作が読まれているかを知るのも、まあおもしろいだろう」と考え引き受けたのです。率直に言いますと、最初は何の期待もありませんでした。

次ページ駄作だと思って読んだら、度胆を抜かれた
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