佐藤優の「村上春樹の読み方」が深い、スゴい 100万部「多崎つくる」は、こう読み解ける

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佐藤:そのために大切なことは、冒頭でも述べましたが、学校の教科書で書かれている「型の知識」を、まずはきちんと身につけることです。「型」を身につけた人だからこそ「『型』の弱点や限界」がわかり、「型破り」ができるわけですから。

井戸: 「型」を知らずに、自分で好き勝手やっている人間は、独創的に見えて、所詮「でたらめ」であり、それでは「エリート層の商売ターゲット」になってしまう。先ほどの「八五パーセントをねたにおれはビジネスを展開している」というセリフも、東大に行けるくらいのアカだからこそ言える言葉なわけですね。

すべてのベースは「小学6年生の教科書」にある

佐藤:「型の知識」の中でも、とくに大切なのは「小学6年生の社会科の教科書」の下巻、いわゆる「公民」のテーマに出ているものです。大学までの勉強や企業研修でやっている内容は、実はこの「小学6年生の教科書」で書かれている内容、つまり基本の「型」を精緻にしたものなわけですから。

井戸:たしかに「憲法改正」「選挙」から「国会議員の仕事」「三権分立」まで、社会人として知っておくべき「基本」は、すべて小6の「公民」の教科書で書かれていることですね。

佐藤:だから、「型」となる基礎知識をいっきに身につけようと思えば、小学6年生の教科書に当たるのがいちばん手っ取り早いんです。そのうえで、自分自身の頭で時間をかけて蓄えて、自分で考える力、すなわち「教養」を養っていくわけです。

井戸:本を読むだけで教養のレベルが高まるということではないんですね。

佐藤:そう思います。あるいは自己啓発セミナーに行って、そこのテキストをいくら読んでも教養にはならない。教科書で「型の知識」を身につけたうえで、自分で考える力をつけなければいけない。それが「本物の教養」というわけです。

井戸:政治の世界でも実は自己啓発セミナーに行く人は多いんです。すると意外なことに、東大法学部卒業みたいな人がハマる。成績優秀で、マニュアル通りにエリートコースを歩んできた人たちです。一方で体育会系とか、自分で「これ」というものを持っている人は、そちらには流されない。

マニュアル通りに生きてきた人たちは、誰かが答えを持ってきてくれて、それがあたかも自分の幸せにつながると思い込んでしまうところがあるのかもしれません。

佐藤:われわれは最終的には、自分で「絵を描く」ことができる人間にならないといけないわけですね。どんなに下手な絵でもいいから、自分で絵を描く。でも、だからといって「型の知識」を身につけなくてもいいというわけではありません。「型」を身につけたうえで、そこで終わる人か、自分の頭で考えられる人になれるか、ということです。

井戸:そう考えると、村上春樹はすごいですね。私もこの本は読みましたが、そういう読み方があるとは気づきませんでした。特にこの部分はすごいことを言ってるんですね。

佐藤:こちらが考えていることを、また違う角度から表現しているのは本当にすごいと思います。

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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