プロ野球「トライアウト」一発逆転勝負の本質 新ルールは挑戦者にどんな影響を与えたのか
マウンドとバッターボックスの間には、普段あるはずの激しい駆け引きは存在しないように思えた。そこにあったのは、野球人生の集大成を発揮しようとする、お互いの純粋な魂だけだ。そのやりとりをマスク越しに眺める。野球界を去りゆくもの同士の最後の戦いとは、こうも美しいものなのかと、今さらながらなんと贅沢な席で観ることができたのだろうか。
2012年11月、私は「プロ野球12球団合同トライアウト」でキャッチャーマスクをかぶっていた。トライアウトとは、各プロ野球球団から戦力外通告を受けた選手たちが、他球団との再契約を賭けて臨む実戦形式の試合のことだ。
2015年は97人の選手が「戦力外通告」に
山本昌、高橋由伸、谷繁元信、和田一浩、小笠原道大、斎藤隆、谷佳知、西口文也…そうそうたる大物選手達が引退してユニフォームを脱いだ2015年。世代交代の真っ只中で、97人の男が職を失った。
そして、現役続行へ一縷の望みをかけて挑んだ合同トライアウト。2012年当時も含め、昨年までは2回にわたって開かれていたが、今年から1回開催に変更された。
かつてのプロ野球界には、戦力外通告を正式に受ける時期に決まりがなく、それによって再契約の機会を損失する恐れがあるとして、日本プロ野球選手会と球団側などとの協議を経て、2001年に「12球団合同トライアウト」は生まれた。
それまでは、早々に戦力外通告を受けた者は個別に球団と接触し、その球団の入団テストを受けるという流れになっていた。簡単に言うと、クビになった選手は自分で入団テストを受けに行って何とかする、という構造である。