メイクアップ・アーティストとしてパリの下町で毎日を精いっぱい生きているクロエは、笑顔がかわいいがさほど美人というわけではなく、どこにでもいそうなおとなしい娘。彼女は、やっととれた3年ぶりのヴァカンスに出かけようとするが、飼い猫グリグリの預かり手がなかなか見つからない。同居しているゲイのミシェルも、失恋のショックでそれどころではない様子。やっと“猫おばさん”マダム・ルネのところで預かってくれることとなり、彼女はつかの間のヴァカンスを楽しむことができた。
だが帰ってみると、グリグリがキッチンの窓から出て行ってしまって見つからないとルネおばさんは混乱している。おばさんを慰めつつも、ひどくショックを受けたクロエは、成り行きで紹介された無口な移民の青年ジャメルと、バスティーユ地区で猫探しを始めるのだった……。
まあ、こんな出だしで始まるストーリーなのだが、この映画はたぶん共感できれば繰り返し見たくなる一本に違いない。反面、映画になにかしらのドラスティックな要素を求める向きには、淡々とドキュメンタリー・タッチで進められる少し退屈な映画と感じてしまうかもしれない。しかし監督のクラピッシュは、そんなことは承知のうえで撮っている。パリの下町に住む人々の日常生活に潜む人間模様が織り成すユーモアとペーソスにあふれた作風は、なんだか山田洋次監督あたりの人情劇とも重なる。
見方によっては、再開発が進むパリ11区「バスティーユ」の下町スケッチとなっており、素顔のパリを知るには格好の映画といえる。映画の進行と共に、いつの間にか鑑賞者もパリを散歩することになるのだ。このあたり、(ぼくのような)パリ好きにはこたえられない映画だ。
(文:たかみひろし/音楽・映像プロデューサー、『モノ・マガジン』2014年5月16日号掲載記事を一部加筆・修正)
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