歴史は時代に合わせて書き換えられる 『ハーバード白熱日本史教室』を書いた北川智子氏に聞く
──「約束の歴史」とは。
これもまた来年には本を執筆したいと思っている私自身のプロジェクト。約束事という視点から歴史を見ていく。もちろん日本に限らず、人は約束をどの時代にもしてきた。その約束をする意味、約束の仕方、その時代的な背景を探りたい。実は「約束の歴史」について、まとめて書かれたものはない。面白いコンセプトと考え、せっかく文化的に異なるヨーロッパに行くのだから、このテーマを掘り下げられればいいなと思っている。
──「歴史はすてき」とも。
ある時点で過去を振り返ると、その時々に振り返り方ばかりでなく、過去そのものの見え方が違ってくる。過去とは現在と結び付く「生き物」であって、自分が思ったように書き、それを伝えていっていいものなのだ。それが以前の認識とは違っていても、それはそのときに見た歴史であって、また次には違う歴史がありうる。歴史は時代に合わせて書き換えられるといっていい。
このように歴史は自分が語り手になれる学問。あるいは学問とまでいわなくても、そうとらえられていいからこそ、授業で関連のペーパーを書く、ラジオ番組を作る、映画を作る際に、同じ題材を扱っても立場によって違う話ができる。それでいいというのが、とてもすてきなことだと思っている。
──日本に「大きな物語」がないとも書いています。
たとえば、海外で日本の話をしてと言われたときに、文化における部分的なことは言えても、張り切って日本の歴史を話すぞという人はまずいない。ほかの国の人たちは、誇らしく思っている話をさっとする。これは、最初に行ったカナダ以来、感じていることだ。歴史教科書をどれくらい覚えているかではなくて、自分が話せる日本史の「大きな物語」をそれぞれに持ってほしいと思う。それは概論でいいし、本人が印象的に思っていることでいいはずだ。
きたがわ・ともこ
1980年生まれ。加ブリティッシュ・コロンビア大学で数学と生命科学を専攻、同大学院でアジア研究の修士課程修了。米プリンストン大学で博士号取得。2009年米ハーバード大学東アジア学部レクチャラー。12年7月より英ケンブリッジにあるニーダム研究所に移る。専門は日本中世史と中世数学史。
(聞き手:塚田紀史 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2012年7月7日号)
『ハーバード白熱日本史教室』 新潮新書 714円 190ページ
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら