政策を先送りすれば選択肢は減っていく--『日本経済史』を書いた杉山伸也氏(慶応義塾大学経済学部教授)に聞く
混迷の時代から脱出するには歴史に学ぶことだといわんばかりに、歴史書の刊行が盛んだ。400年を通観する本書は「政策を先送りすればするほど選択肢は減っていく」事実を随所で描き出す。
──参考文献一覧まで入れると600ページ近い大著です。
日本の近代化を準備した近世から,近代を経て現代までのほぼ400年を書いた。逆に日本経済の400年はこんなものかという人もいるかもしれない。
──なぜ江戸時代から。
国として統一された江戸時代から始めないと、今の日本経済は議論できない。江戸時代には開港以降の経済成長の基盤ができていた。しかも、国際収支、財政収支をキーワードとして苦難の連続性が読み取れる。自分の専門は貿易史であり、その視点からストーリーを組み立てるのに、徳川時代にさかのぼらないわけにはいかない。
──徳川時代?
英語の表現でも、徳川時代の長期の安定的な平和の時期についてPax Tokugawaで通用する。江戸時代と言ってしまうと、江戸に関心が向き、しかもどうしても政治的になる。徳川時代の経済は二つの中心があって、江戸は大坂のように物流を集めていない。しかも、大坂は堂島のコメ市場のように先進性も備えている。徳川時代はコメ経済であり、コメを買い上げたり売り出したりして、物価調整をした。今の買いオペ売りオペを先取りしていた。経験から学んだのかわからないが、この平和維持の効果は特筆に値する。
明治時代における主導産業の綿紡績業は、ほとんどが関西を基盤にしていて関東にはめぼしいものはない。関西に近代的な産業を成長させる基盤が、それも徳川時代にできていたのだ。その意味でも、江戸時代という表現では限界がある。