日本で賃金上昇がなかなか進まない根本理由 企業のデフレ心理払拭する金融緩和の徹底を

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脱デフレに向けた中途半端になってしまった総需要安定化政策が、企業による賃上げへのインセンティブを弱めたということである(第2の矢が逆噴射を起こした)。つまり、脱デフレにブレーキをかける政策手段には徹底して慎重に対応することが、回り道のようにみえて賃金上昇の実現の近道だと思われる。また、賃金が伸び悩んでいることには、団塊世代など高齢者の再雇用などが進み、またこれまで非労働力化していた女性の就業拡大、などの労働供給側の変化が一因になっている。

賃金水準が低い労働者が増えれば、一人当たりの賃金は抑制される。これらの労働者の新規採用を優先し、迅速に(手っ取り早く)かつコストを抑制して労働力を確保することが依然合理的と判断する企業が多いのかもしれない。人手不足時代到来と言われるが、2014年に景気回復にブレーキがかかる中で、建設業など一部を除けばコスト抑制の制約を最優先にしながら、労働者を確保する余裕が多くの企業にあるのではないか。

すでに日本は完全雇用に近いと言われることが多い。ただ、日本の失業率は3%台前半と低いようにも見えるが、1990年代半ば以前の安定したインフレ期には失業率は2%台で推移していた。過去20年で、日本の労働市場において摩擦的失業率が上昇したとの分析もみかけるが、これらは推計誤差が大きい可能性がかなりあると筆者は考えている。

企業は労働市場がタイトだと判断していない

本当に完全雇用といえるほど労働市場が逼迫していれば、企業は、将来の事業拡大あるいは企業価値を保つために、他社との競争との観点から、正社員化促進を含め高めの賃金を支払うなど、人的資本を拡充することが合理的な行動になるだろう。賃金の伸びが高まらないのは、多くの企業は、雇用戦略を変える必要性を認識するほど労働市場がタイト化していないと判断していることが一因ではないか。

このことは、脱デフレが道半ばであるとともに、2012年以前よりは大分少なくなったとはいえ、労働市場にスラック(余剰)が残っていることを意味する。実際に、賃金の伸びの低さ以外にも日本の労働市場にまだ余剰が残っていることを示すデータがある。男性の現役世代の労働参加率(=労働市場に存在する人/総人口)が、依然低下し続けていることである。

女性の労働参加率は過去20年いずれの世代でも上昇しており、これは景気動向とはほぼ関係なく起きてきた。一方で、現役世代(20~50歳代)の男性の労働参加率は低下が続いている。例えば30-34歳男性の労働力率は1995年98%だったが、2014年には95%台まで低下した。

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