たとえばある企業の経営者が中期経営目標を掲げて、その目標が達成されないうちに次の中期目標を打ち出した場合、その企業の社員や株主はどう思うだろうか。「あいつ(経営者)は、前の目標達成が出来ないものだから、新しい目標で目先を変えようとしているな」と批判的な眼を向けるのではないか。
こうした意味で、安倍内閣が発表した「新3本の矢」は、印象がよろしくないように思う。強い経済はもちろん目指すべき目標だし、子育て支援や高齢者対策の進展を手段とする「一億総活躍」(何にせよ「一億」と付くキャッチフレーズはうさんくさくて嫌いだが)も、その目指すところ自体は悪くない。とはいえ、4-6月期に続いて7-9月期のGDPもマイナス成長となり、定義により「景気後退」に陥ったわけで、経済政策としての「アベノミクス」に対する評判は低下している。
当面の賃金を上げたい政府の意向
国民の本音ベースの評価は「不満はあるが、民主党政権時代よりはましだ」という辺りに平均値があるように思うが、「実質賃金が低下していて生活はよくなっていないし、アベノミクスには確かに不満がある」とも思っているのではないか。雇用が改善したことについては大いに、企業業績や株価の改善にもそれなりに(円安による効果が大きいが)、プラスの評価を与えることがフェアなのだが、生鮮食品とエネルギー価格を除いたコアコアCPIで見ても、目標の2%にはまだ届いていないので、明らかに「道半ば」ではある。
しかし、金融緩和を止めるのは不適切だ(増税も不適切だったが)。それを理解するには、逆に金融を引き締め方向に動いた場合を想像するといい。為替レートは大きく円高に飛ぶだろうし(1ドル110円を簡単に割るだろう)、その場合一時的に実質賃金は上がるかもしれないが、景気は冷え込み雇用の改善も逆転するだろう。必要なのは、アベノミクスの終了ではなく、現状で何が足りないかを考えることだ。
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