賃上げとROE向上はアクセルとブレーキだ

消費者も企業も将来に自信を持っていない

首相官邸を中心とする政権側では、賃金上昇が鈍いことに関して苛立ちを感じているようだ。ここ2、3回の経済財政諮問会議の議事録を見ると、出席者の多くが今後の経済状況のカギとして「賃金」に言及している。正式な表明ではないものの、政府筋から企業側に対して、今後の賃金に対する態度をみて法人税率の引き下げ幅を検討するといった、法人税引き下げを交渉材料に使ってでも当面の賃金を上げたい意向が見え隠れしている。

確かに、景気減速の直接的原因はGDPの6割を占める消費が盛り上がらないことであり、背景には勤労者の実質賃金が上がらないことと、消費者全般が将来の実質所得増加に自信を持てずにいて消費に慎重なことがある。

賃上げとROEのけんかはROEが優勢

それでは、どうしたら賃金は上がるのか。

他の条件を一定とすると、企業が賃金を上げると、利益に於ける労働分配率が上昇し、株主への分配が減る。すなわち、近年経営評価の指標として注目されているROE(自己資本利益率)が低下することになる。

賃上げを求められる一方で、企業のガバナンス強化が叫ばれ、社外取締役(本当に役に立つのかは疑問だけど)を押し付けられたりしながら、資本当たりの利益を増やして株主に報いよとのプレッシャーを受けるのだから、経営者は大変だ。もっとも、ついでに自分の報酬を上げることが出来るから、後者については渋い顔を見せながらも、彼らは悪い話だとは思っていまい。賃上げとROEのけんかはROEが優勢になりやすい。

政府は、企業に対して賃上げの要請と「ガバナンス」の改革を同時に求めているが、これらがアクセルとブレーキを一緒に踏むに近い関係にあることに対して、どの程度自覚的なのだろうか。

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