経済全体としてみると、完全雇用に近づいた状態なのだから賃上げによって消費を底上げし、将来の消費動向に自信を持つことで企業の設備投資が促進され、景気が良くなって企業業績も伸び、ひいては物価が上がる、といった循環になることが望ましいのかもしれない。しかし、当面の状況では、企業を経営する者の立場では、将来の需要動向にまだ自信が持てないのだろうし、消費者側もまた将来に自信を持っていない。
かくして有効な手が打てないまま膠着状態に至ると、デフレ脱却自体が危うくなって、アベノミクスが頓挫する可能性もないとは言えない。改善のないまま次の消費税不況にでも突入したら、ゲームオーバーで一からやり直しのような状況に陥りかねない。
消費者も企業も将来に自信を持てない
政府も、現状について本音では「イマイチだ」と思っているのではないか。また、消費者と企業の双方が将来に自信を持てない大きな理由となっている2017年の消費税率の10%への引き上げ予定を、本音では延期出来るといいと思っているのでないかと推察する。なにせ、政府の中長期見通しでも、2017年度は成長率が前年比1.1%も落ちると予想されているのだ。分かっているのなら、早々に止めたらよさそうなものだが、現時点では、そこまで舵を切る勇気を持っていないだろう。
本来は、デフレ脱却が財政再建に対して優先し、デフレ脱却自体が財政再建にもプラスだというのがアベノミクスの論理と手順だったはずだが、この優先順位を曖昧にしていることが停滞の根本原因だ。なお、どうしても消費税率引き上げをやりたいなら、その需要吸収効果を上回る需要追加措置(必ずしも一般会計からでなくとも可能だ)を組み合わせたらいいのだが、そこまでの実行力が現政権にあるかどうかも疑問だ。
それでは、当面起こりそうなことは何だろうか。来年の1月4日に招集される通常国会の冒頭で補正予算が組まれるのだろう。これに関しては、財務省が「消費税率を引き上げられる環境を作りたい」と思っているのだから、大方が予想する程度よりは大胆なものが出て来てもおかしくない。
年末にかけて補正予算を推測しつつ、これを好感して株価が上値を追う時間と可能性は大いにあるように思う。ある程度時間が経って、実際の資金の流れが見えてくると、やがてそうは言っていられなくなるのかもしれないが、年内に予想されるFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げも、短期的には「織り込み済み」的な反応でこなされるのではないか。
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