日本人は「節約命」の考えをそろそろ捨てよう 藤野英人×ちきりん、デフレの稼ぎ方を語る

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藤野:まさに「マーケット感覚」ですね。

ちきりん:ええ。お中元やお歳暮、年賀状や、企業が年末に配るカレンダーも同じです。それらもすべてGDPの一部でしょ。カレンダー屋さん、デザイナー、カメラマン……いろんな人がそれらを作り、売ることで生活しています。でも、そういう慣習に価値がないと思う人が増え、非合理な価値を削ろうという合理的な動きが出現すると、経済規模は縮小してしまう。

ほかにも、今は人間が長い時間かけてやっていることを、機械が短時間で、しかも安くこなせるようになるなどイノベーションによってもデフレは促進されますよね。

藤野:ネットにおけるイノベーションそのものがデフレ要因ですからね。私が投資している「八面六臂」という会社は、レストランの人たちが築地に行かなくても仕入れができるという仕組みを始めました。漁師から築地に行く過程を「中抜き」すると、たしかに消費者にも生産者にもいいかもしれないけど、でも確実にGDPが減っていく。

新たな価値によって正規の価値が失われる可能性

『マーケット感覚を身に付けよう』(ちきりん著、ダイヤモンド社) 「論理思考」と対になるもう1つの力、「マーケット感覚」を初めて解説。上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

ちきりん:鮮魚を買うとき、今までだと規格に適合した魚しか価値にならなかった。でもネットだと、規格外の魚でも買う人が出てきて、スーパーで1000円の魚を買っていた人が、ふぞろいな魚を500円で買い始める。これって完全にデフレ方向への力ですよね。

藤野:それすごく鋭い指摘で、八面六臂がやろうとしていることはまさにそれです。これまで漁協さんは、規格外の魚を全部捨てていたんですよ。でもネットであれば、3匹、4匹でも売れるようになる。生産者からするとこれまで捨てられたものも売れるようになるので、すごくありがたいんですよ。

ちきりん:漁師さんにとっては、今まで価値を生まなかった魚も収入になるわけだから、生産性は上がってるように思える。でもその一方で、その分、正価の魚が高く見えるようになり、売れにくくなってる。

こういう動きはまだまだこれからたくさん出てくるので、そうなるともう当面、経済成長なんかできないんじゃないの?と思えるんです。新たに創造される価値や成長する市場はたくさんあるけど、一方で、それらの価値に置き換えられて潰れていく市場もたくさんでてくる。差し引きするとGDPは増えるどころか、次の10年で50兆円減りましたということが起こるんじゃないでしょうか。

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