ピケティ絶賛!格差解消の切り札はこれだ 平等な社会に向けた現実的なビジョン

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私見ながら、私自身は個人への金銭的給付という発想には昔からちょっと抵抗があったと言わざるを得ない。私はたいがい、ある種の基本的な財――教育、医療、文化など――へのアクセス保証に専念するほうが好みだ。だがどちらのアプローチが好きでも、相続税を使って、そうした税を財源とする権利配分と直接関連づけるという発想は、私にはきわめて有望に思える。

アトキンソンの示す解決策のすさまじい利点は、「万人への相続財産」の財源こそが相続税の目的なのだという考え方をはっきり述べられるということだ。各人に与えられる金額を、相続税率と直接結びつけることで、ひょっとしたらこの問題に関する民主的議論の前提すら変えられるのではないか。

人頭税の復活と資産税の問題

本書のなかで最もおもしろい部分の一つは、イギリスでの人頭税をめぐる論争についての部分だ。これは悪名高いほど収奪性の強い税金、あるいは経済学者の言い方だとランプサム税だ――金持ちだろうと貧乏人だろうと、みんな同じ金額をポンドで支払うのだ。これは1989.1990年にマーガレット・サッチャーが古いレーティング式の税(こちらは住宅にかかる定率税で、納税額は概ね住宅価額に比例する)のかわりに導入したものだ。

だから人頭税は、最も貧しい納税者に最も大きな増税となり、最も豊かな納税者には大幅減税となった。この改革が不人気だったと言ったら控え目すぎる。都市暴動や議会放棄が生じ、鉄の女は頑固に抵抗したものの、ついに1990年11月に保守党議員たちにより投票で首相の座を追われ、すぐにジョン・メイジャーに交替したら、すぐに人頭税を廃止した。明らかに改革として受け入れ難かったのだ。

これほど知られていないこととして、1993年に人頭税にかわり導入され、いまだに続いている新しい地方税「カウンシル税」は、実は人頭税とほぼ同じくらい逆進性が強いのだ。ここではアトキンソンが集めたデータがことさら衝撃的だ。

保有不動産の価値が10万ポンドほどだった個人は、平均で1000ポンド程度のカウンシル税を支払うが、不動産価値が100万ポンドならおよそ2000~2500ポンドですむ。これは確かにサッチャーが構想していたものよりも逆進性は遥かに弱いが、それでも逆進性が極度に高いことにはかわりない。実際、税率は最貧納税者には1パーセントなのが、最も裕福な層は0.2~0.25パーセントで、平均税率はイギリス全体で2014~2015年には0.54パーセントだ。ほとんどのヨーロッパ諸国やアメリカでは、地方税は通常は不動産資産の価値に比例する。

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