ピケティ絶賛!格差解消の切り札はこれだ 平等な社会に向けた現実的なビジョン

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本書とその提案を完全に享受するには、それをアトキンソンのキャリアというもっと広い流れに置くべきだろう。というのもアトキンソンは主に、徹底して慎重で厳密な学者としての成果を生み出してきた人物だからだ。1966年から2015年にかけて、アトキンソンは書籍を50冊前後と、学術論文350本以上を発表している。これは富の分配と貧困をめぐる国際研究という広い分野に深い変革をもたらした。1970年代以降も、重要な理論的論文を書き、特に最適税制理論に関するものが多い。こうした貢献だけでも、ノーベル賞数個分の価値がある。

学生や研究者にとってお手本のような存在

アンソニー・アトキンソンは、たびたびノーベル賞候補に名前の挙がる「格差研究のゴッドファーザー」。オックスフォード大学ナフィールドカレッジ元学長で、現在オックスフォード大学フェロー

だがアトキンソンの最も重要で深遠な研究は、不平等の歴史的、実証的な分析であり、それもまったく危なげなく活用される理論的モデルを尊重しつつ、慎重かつ穏健な形で実施されているのだ。その特徴的なアプローチは、歴史的でもあり、実証的でもあり、理論的でもある。その極度の精緻さと疑問の余地なき誠実さ、社会科学の研究者としての役割と、イギリス、ヨーロッパ、世界の市民としての立場とを倫理的に融和させたアトキンソンは、何十年にもわたり、何世代もの学生や若き研究者にとってお手本のような存在だった。

サイモン・クズネッツと共に、アトキンソンは概ね社会科学と政治経済学のなかで新しい分野を創始した。それは所得と財産の分配の歴史的トレンド研究という分野だ。もちろん、分配と長期トレンドの問題はすでに19世紀政治科学、特にトマス・マルサスやデヴィッド・リカード、カール・マルクスの著作に登場している。だがこうした著者たちは、限られたデータしか使えず、しばしば純粋理論的な考察にとどまるしかなかった。

所得や財産の分配に関する分析が、実際に歴史的な情報源をもとに可能となったのは、20世紀後半になってクズネッツとアトキンソンの研究が登場してからのことだ。1953年の力作『所得と貯蓄における所得上位層のシェア』で、クズネッツはアメリカの国民所得と財産に関する系統だった記録(クズネッツ自身が推す説を手伝った記録)と連邦所得税(長きにわたる政治的な戦いの後で1913年に創設)が提供してくれるデータを組み合わせ、年次の所得分布に関する世界初の歴史的な記述を確立した。そのついでに、あるよい報せも生み出した。不平等は減っているというのだ。

1978年に、『イギリスの個人資産分布』という本質的な本(アラン・ハリソンと共著)で、アトキンソンはクズネッツを出し抜き追い越した。彼は1910年代から1970年代までのイギリス相続記録を系統的に使い、各種の経済的、社会的、政治的な力が所得分配に見られる展開の理解をどこまで助けてくれるのか、堂々たる分析を行った。その分布は、この極度に荒っぽい時期には特に注目されていたものなのだ。

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