【産業天気図・鉄鋼】業界全体は好天続くが、一部電炉で怪しい雲も立ち込める

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鉄鋼業界は、2007年度後半から08年度前半にかけても概ね好天が続く見込みだ。需要は製造業向けが堅調なうえ、足元の粗鋼生産量も史上2番目の高水準を記録した06年度のペースを上回っている。依然として増産が続く中国メーカーの動向には注視が必要だが、高級品へのシフトを進める日本メーカーへの影響は軽微との見方が大勢を占めている。
 こうした状況の中、高炉各社は高級鋼の増産に余念がない。高炉の定期改修に合わせて、生産能力の増強も実施。今年4月に名古屋製鉄所の高炉を改修した新日本製鉄<5401>や、05年に増強した西日本製鉄所(福山地区)の高炉がフル稼働を始めたJFEホールディングス<5411>の大手2社に関しては、営業最高益更新が現実味を増している。住友金属工業<5405>や神戸製鋼所<5406>も同様に高級鋼の増産を進めており、実質的には増益基調にある。ただ、2大メーカーに比べて規模で劣るため、税制変更に伴う償却負担の増加が重くのしかかり、見かけ上は減益となる見込みだ。ただ、今年6月にはトヨタ自動車と新日鉄の間で自動車用鋼材の値上げ交渉が2年ぶりに妥結。その後も各メーカー間で順次価格改善が進んでいるもようで、各社とも通期での上方修正余地は大きいと見られる。
 とはいえ、業界全体に目を向けると、怪しい雲が出始めているのも事実。不安要素の1つは、原料スクラップの高騰である。中国を中心にして世界的にスクラップの需要が高まっているのに加え、二酸化炭素排出量の削減を図る高炉メーカーがスクラップの購入を増やしている。電炉最大手の東京製鉄<5423>のスクラップ購入価格は、8月に4万円の大台を突破。その一方で製品への価格転嫁は十分に進んでいるとはいえず、3期連続の営業減益は避けられそうにない。
 もう1つの不安要素は、ニッケル価格の暴落だ。国際指標であるLME(ロンドン金属取引所)が今年6月に相場操縦に対する規制策を導入した結果、それまで価格をつり上げてきた投機資金が流出。その後、米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題によってさらにリスクマネーが引き上げたため、5月中旬の5万4000ドル(1トン当たり)から8月中旬には2万5000ドル割れまで下落した。このあおりを受け、ニッケルを使用するステンレス製品に先安感が出始める結果となった。ユーザーの買い控えが顕在化するなかで、在庫も積み上がり、ステンレスメーカーは各社とも足元で3割程度の減産態勢を取っている。仮に減産が長期化すれば、日本冶金工業<5480>や日本金属工業<5479>など、ステンレス専業メーカーを中心に打撃は小さくないと思われる。
 2000年代前半には中国での需要拡大で業界全体が恩恵を受けた鉄鋼業界だが、逆に中国に起因する諸要因の変化によって、徐々に企業間格差が広がりつつあるのが現状のようだ。
【猪澤 顕明記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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