【産業天気図・ビール】猛暑に恵まれたが新製品乱打があだに。原料高も響きビール業界は「小雨」
07年度のビール業界は「雨」。前半戦は暖冬や猛暑に恵まれたにもかかわらず、1~6月の総市場は前年同期比1.9%減と振るわなかった。
飲酒運転の取り締まり強化や高齢化、若者のアルコール離れなどで市場環境が厳しい中、ビールメーカーは新商品を乱発することで市場活性化を図っている。これにより、前回予想ではかろうじて「曇り」を維持すると見ていたが、各社複数のブランドが混在することで逆に消費者の混乱を招いてしまい、需要も減退。下期は「雨」空を招くという皮肉な結果になりそうだ。
この中でシェアを若干増やしたのがアサヒビール<2502>。発泡酒と第3のビールは前年同期比でプラスを確保した。特に、糖質ゼロの「スタイルフリー」などの新製品が好調で、発泡酒は2ケタ増となった。しかし、主力のスーパードライが6%近く減少したことで、ビール系飲料全体の販売数量は前年同期比1.5%減と後退。広告販促費の増加も重荷となり採算も悪化した。下期には挽回を狙っているが、2期連続で営業減益となる可能性がある。会社は通期予想を減額しているが、「会社四季報」秋号予想はさらに厳しめに見ている。
一方、ライバルのキリンホールディングス<2503>は、ビール系飲料の販売数量が同2.7%減と苦戦。ビール「ザ・ゴールド」や第3のビール「良質素材」など積極的な新製品投入を行ったものの、ビール、発泡酒、第3のビールすべてが前年割れとなった。下期にかけて第3のビールの新製品「スパークリングホップ」を投入して好転を狙うが、やはり広告販促費の増加が重い。アサヒ同様に会社営業益予想を減額している。
また、サッポロホールディングス<2501>は、ビール系飲料の販売数量が同1.0%減と比較的健闘。新製品「エビス・ザ・ホップ」の投入もあってエビスブランドが同3割増と絶好調。第3のビールも相次ぐ新製品攻勢でプラスを確保した。しかし、新製品を投入しなかった発泡酒は、同23%減と大苦戦。さらに、過度な新製品ラッシュを繰り広げた結果、広告販促費が膨張して上期は営業大赤字。この反省を踏まえ、下期は新製品投入や広告販促費を抑制する方針を掲げているが、そのためにガリバー2社にシェアを食われる懸念もぬぐいきれない。業績は買収した米国スリーマンビール社や不動産事業などが貢献して営業増益が見込めるが、会社営業益予想は若干下回りそうだ。
サントリーは、ビール系飲料が同1.7%減でシェアも前年同期と同じ。「ザ・プレミアムモルツ」などが伸長したが、やはり広告販促費が重いのは他社と変わりない。
ビール4社は市場の縮小が続いているにもかかわらず、派手な広告宣伝や販促を繰り広げて収益悪化が続いている。さらに、麦芽やとうもろこし、缶などの原料高も痛手で、07年12月期はアサヒが85億円、キリンは80億円の利益圧迫要因となっている。これらを生産コスト削減で相殺するには限界があり、08年12月期もビール業界の天気は「雨」が続きそう。ただし過度なシェア争い戦略を見直して、値上げや広告販促費の抑制など抜本的な意識改革に踏み切れば、曇りからわずかに晴天が見えてくるかもしれない。
【前田 佳子記者】
(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部
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