経済学は人間の行動を理解するための文法--『ひたすら読むエコノミクス』を書いた伊藤秀史氏(一橋大学大学院商学研究科教授)に聞く
経済学、それもミクロ経済学の先端の勘所が「ひたすら頭に入る副読本」が好評だ。経済学は物事を考える際の強力なフレームワーク、いわば「文法」になるという。
──経済学は「文法」とあります。
経済学は、人間の行動を筋道を立てて理解するための一つの考え方であり、ここでは「文法」という言葉を使って、行動分析に適用できると伝えたかった。経済学には、経済を対象とする側面と、人間行動を分析する側面がある。どういう分野を対象にする研究・学問かより、人間の行動をどう分析するかに注目している。この文法という位置づけは、私のオリジナルではない。猪木武徳先生が使っていて、わかりやすいので参考にした。
この本には図や表を載せていない。数字が並んだデータのたぐいもない。数式は必要最低限にして、ひたすら文章で読んでもらうことを意図した。事例は基本的に新聞や雑誌の記事をベースにしている。それも、経済学的にはめ込むのに適した場所に、たくさん盛り込んだ。
──経済学の専門用語を「業界用語」と表現しています。
授業で話す際に、専門用語や学術用語と言うよりも学生にはピンとくる。経済学で使う言葉、たとえば合理性、競争、市場などは、一方で日常用語でもあるだけに、専門用語として理解してもらう際に普段のイメージが出てきてしまい、どうしてもそれに引っ張られる。経済学ではそれぞれ特定の意味を持っている。そうなると、それこそ経済学の業界用語とまったく違う理解になってしまいかねず、誤解の生じる可能性がある。そこをあえて注意喚起する意味もあって、業界用語とした。
──経済学はおカネの学問だという「誤解」もあります。
そこにもこだわっている。おカネと関係ない「小話」をあえて豊富に入れている。会社で人の行動として当たり前にとらえられていることでも、なぜそうなのか分析してみると、経済学の文法で明快に理解できることが極めて多い。