経済学は人間の行動を理解するための文法--『ひたすら読むエコノミクス』を書いた伊藤秀史氏(一橋大学大学院商学研究科教授)に聞く
──オークションやマッチング、マーケットデザインなど、話題のトピックも盛り込んでいます。
マッチングの事例では「就活」がわかりやすい。オークションでは周波数帯を日本でも入札で割り当てるという話になってきている。
これらのテーマは今や経済学を抜きには考えられない。私の大学のゼミでも、スクリーニングの仕組みとしてのオークションや、出し抜き合戦による「市場の失敗」の対策のために、マッチングの基本をまず学んでもらう。その勉強の後、実際にオークション制度、入札のやり方について、現実のどういう問題を解決できるのか、あるいはこういう問題はマッチングで解決できないかと、具体的に考えてもらう。それによるマーケットデザインを各自が試みる。その成果を夏休み終わりのゼミ合宿で発表させている。
──中でも組織デザイン論はご専門です。ビジネスパーソンにとって参考になる点も多いのでは。
その取引のどの部分までを組織内でやるか、あるいは市場に任せるか。組織の中で権限をどう委譲するか、組織内コミュニケーションはどう進めたらいいかなど、テーマは山のようにある。取引を市場で行うか、それとも組織内に取り込んで権限関係の下で行うか、という選択の問題は、経済学の業界では「企業の境界」の問題と呼ばれている。
市場取引と組織内取引には、それぞれメリットとデメリットがある。どのような取引が組織内に取り込まれるのがいいのかは、「費用があまり高くならない取引は市場で行うべし」となる。不確実性や複雑性の高い取引は、組織内に取り込むほうが望ましい可能性が高い。