《ミドルのための実践的戦略思考》「プロダクトライフサイクル」で読み解く大手旅行代理店の中堅営業担当・沢田の悩み

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■理論の概説:プロダクトライフサイクル(PLC)

プロダクトライフサイクル(以下、PLC)は、アメリカの経済学者であったレイモンド・バーノンによって1960年代に提唱された理論です。当初、この理論は、「製品の一連のライフサイクルの流れ」と、「海外との輸出入の関係性、もしくは海外への生産立地移転といったグローバル化の課題」を総合的に考察したモデルでした(すなわち、製品のライフサイクルが進むにしたがって、製品の生産技術の模倣、生産コストの低下につながり、コスト優位性確保のために徐々に途上国に生産拠点が移管されていく、という一連の国際貿易の動態的な変化を説明するものです)。

しかし現在、我々の多くが目にするPLC理論は、この理論からグローバルの要素が取り除かれ、よりシンプルな理論として、マーケティングの大家であるフィリップ・コトラーなどの力によって広く普及してきました。

ここでその要点を簡単におさらいしてみましょう。前述のストーリーでも触れた通り、製品やサービスのライフサイクルは、「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」の4つに大別できるとされており、ステージごとに特徴的な傾向が定義されています(下の図を参照)。

新製品やサービスが導入された直後の「導入期」においては、初期投資費用が必要である一方で、その投資に見合うだけのスケールメリットや経験曲線による効果(数多くの生産を経験することで、作業の効率化などを生じ、結果、コストが削減されること)が十分ではないため、価格は高く、利益もほとんど望めません。

しかし、やがて市場が拡大していくと、引き続きマーケティングコストなどはかかるものの、規模や経験曲線によってコストが削減され、利益も拡大していきます。ただ、この「成長期」というステージでは、多くのプレイヤーが類似商品やサービスをもって参入を始めるため、徐々に競争環境は厳しくなっていきます。

そして、製品やサービスが顧客全般に広まることにより市場の拡大が止まると、当然ながら売上も頭打ちになります。これを「成熟期」と言います。しかし、このステージに入ると、一般的には導入期等と比較して多額の投資を必要としないために、コストもそれほどかからず、結果的には利益額はこの時期に最大化し、そして最終的に減少の傾向を見せ始めます。

また、この時期には過去の累積生産量によるコスト構造も決まってしまうため、概して大きなプレイヤーは相対的に低コスト構造となり、後発の中小企業がそのコスト構造を実現することは難しくなります。そのために、新規参入プレイヤーの数は成長期と比較して減少します。

そして、隣接分野で新たな市場が立ち上がること等により、市場規模が減少し始めます。いわゆる「衰退期」です。衰退期では、売上がマイナス成長となる一方で、コストは変わらないために、利益額は減り、競合も新たな魅力的な市場を目指して撤退をし始めます。

ステージごとに採るべき戦略は、当然のことながら異なります。

例えば導入期においては、市場における認知度が低く、顧客が使用イメージを持ちにくいこと、もしくは将来の価格低下を期待した買い控えなどの起きることが、大きな障害となります。そのために、製品の本質的な機能を徹底的に分かりやすくし、伝えていく必要があります。

説明重視のプッシュ型コミュニケーションをすることによって、消費者側のボトルネックを解消することが定石です。そのためにチャネルを限定したり、チャネルに高いインセンティブを加えたりすることによって、確実に消費者にメッセージを伝えることを狙うケースが多くなります。

成長期においては、製品の本質的な機能に加え、補助的機能を加えて全体的な魅力を向上させることが重要になります。価格は、規模や経験効果を踏まえ、低めに設定することで普及を狙い、チャネルは導入期と比較して大きく広げていきます。プロモーションにおいてもマスコミなどを利用したプル型を利用するケースが多くなります。

成熟期においては、上記のとおり、業界のポジションが定まってくるために、業界何位企業なのかによって採るべきアプローチが変わってきます。また、様々な施策が考えられますが、これは後述します。

最後に衰退期は、撤退、もしくは最後まで残ることによって残存者利益を狙う、というアプローチが定石となります。

ここまでは多くの人がどこかで聞いたことがあると思います。感覚的にも分かりやすいでしょう。しかし、この理論は実はそこまでの理解で止まっていては実務上、ほとんど役に立ちません。実務においては、例えば「そもそも、我々のいるビジネスが成長期にあるのか、成熟期にあるのかよく分からない」という壁にぶつかるからです。

では、それを考えるために、もう少し具体的にこの理論を見ていきましょう。

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