《ミドルのための実践的戦略思考》「プロダクトライフサイクル」で読み解く大手旅行代理店の中堅営業担当・沢田の悩み
■解説:沢田さんはどうすべきか?
さて、ここまでの理論を踏まえて、沢田さんがやるべきことを考えてみましょう。
まず、先に述べた通り、「市場」をどう定義するか、から考える必要があります。「旅行業は成熟期だから……」と考えている時点で、ある種の思考の枠にはまってしまっています。まずそこから自分を解き放ち、自社の事業を単に「旅行業」とくくる前に、もっと市場自体を考えた方がよいでしょう。
例えば、現時点では、「日本人の国内旅行、もしくは海外旅行」という前提がありそうですが、「外国人が日本へ」というインバウンド型の市場定義もあるでしょうし、「外国人が日本以外の海外へ」という市場の見方もできるでしょう。市場をどう定義するかによって、PLC上のステージは全く変わってきます。まずはそこで知恵を絞るべきです。
さらに、上記で紹介したようなイノベーションのパターンを理解して、どのような方向性が考えられるかを具体的に考えてみるべきでしょう。
「何か新しい施策を提案しろ」と言われても、既存の枠組みに縛られてなかなか新たなアイディアは出ないものです。そこでブレイクスルーのヒントになるのは、新しい思考の枠組みです。
本文では、一例として、ジェフリー・ムーアの「ライフサイクル・イノベーション」から8つのアプローチをご紹介しましたが、例えばそのような枠組みの力を借りながら思考を広げてみることをお薦めします。
例えば、旅行業ということでこの枠組みから見てみると、「顧客インティマシー」における「顧客エクスペリエンス・イノベーション」で考えれば、「その土地に即したイベントを自ら企画することによって、旅先での顧客経験をより魅力的にすることにより、新たな顧客を獲得する」といったようなアイディアが出てくるかもしれません。
もしくは、「オペレーショナル・エクセレンス」では、ネットを活用したオペレーション改善は、まだまだいくらでも考える余地がある領域のように思います。
そして、当然ながらその際に意識しなくてはならないのは、KBF(顧客の購買要因)や業界のKSF(成功要因)の存在です。顧客インティマシーなどの枠組みで考えたとしても、その段階では所詮はアイディアを出しただけ。それだけでうまくいくはずはありません。
大切なのは、定義した市場において、顧客は何を重視しているのか(=KBF)、そしてそれを満たすために必要なものは何か、という大前提を外さない、ということです。
成熟期といえども、市場は確実に変化しています。それは携帯電話の例を再度あげずとも、お分かりいただけることでしょう。思考を柔らかくして打ち手の広がりを担保することも重要ですが、大前提として、その市場がどう変化しているのか、何を求めるのか、ということをマクロ、ミクロの視点で押さえておくことが必須になります(このあたりの話は、再び第4話「企業参謀」にも通じる話ですので、改めてそちらもご参照ください)