工藤は、果物盛り合わせの籠を抱えている。どうやら夫の見舞いにきたらしい。三人とも、むしろ彼らが病人じゃないかと思うほどに顔面蒼白だった。
果物の籠をサイドテーブルへ置くと、三人は夫のベッドの前で膝を折り、土下座をした。
「本当に、僕たちはとんでもないことをしてしまいました。仲間同士の、ちょっとした悪ふざけのつもりだったんです。それがまさかこんな大騒ぎになるだなんて……。僕はSNSの動画や画像で、大学の人事部に特定されました。大学は停学処分で、内々定も取り消しになりました。このうえ民事裁判で賠償請求までされたら、もう生きていけません。どうか裁判は勘弁してもらえないでしょうか……」
絢香と夫は顔を見合わせた。こうして改めて工藤たちを目の前にしてみると、彼らは自分より何歳も年下の若者だった。
彼らの行為も一昔前ならば、こんな騒ぎになることはなく、店主の親父の拳骨(げんこつ)で済んだのかもしれない。
民事裁判は行なわない
夫は食べかけの林檎を手にしたまま、工藤たちに向かって言う。
「もう顔を上げなさい。君たちが充分に反省していることは分かった。裁判はせずに、この件は水に流す。これからは人様には迷惑をかけない大人になりなさい」
頭を上げた三人の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
成人した大人ではなく、小学生くらいの子供に見えた。
その晩、絢香は再び子供部屋同盟へアクセスした。万次郎に、民事裁判は行なわない旨を伝える。そしてあの動画と画像をどうやって入手したのか訊いてみた。
──えぇ、顔出し動画は、もちろん合成ですよ。工藤君のインスタには、彼のご尊顔がたくさんアップされていましたからね。今は何枚かの顔画像があれば、あのような動画は簡単にAIで生成できます。
大学キャンパスの画像も、たんに彼のインスタから拝借したものですよ。それをわたくしが匿名アカウントで投稿しただけですね。
匿名の人々は飽きっぽいのか、今のところ工藤の住所氏名は特定されてませんね。まぁ、停学処分を食らって内定取り消しのうえの号泣土下座謝罪なんで、成敗Aと見なしていいんじゃないですかね。
裁判取り下げの件も了解です。敏腕悪徳弁護士の平八郎君は満額ふんだくる気満々でしたが、このうえで一千万を払わせたら過剰成敗になってしまいますからね。
──こちらとしてはもう充分です。彼らの謝罪で、夫婦ともども心が晴れました。ちなみにその平八郎君というかたは、弁護士資格を持っているのに、こどおじなのですか?


















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