日本社会で増殖する「他人に聞かない若者たち」、その先に生じる《新たな格差》がもたらす悲惨な末路

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日本語が不自由でも、AI翻訳を使えばリアルタイムで意思疎通が可能になる。もともと人とのやり取りを重んじる文化圏の外国人であれば、日本人の若者よりも上司や同僚に積極的に質問することもありうる。外国人労働者が円滑に情報を伝える一方で、日本人の若者が黙ったままでいると、外国人が日本人よりも早く昇進し、責任ある仕事を任される可能性も低くない。

外国人との競争に限らない。よく話し、よく聞く人は、上司や同僚との信頼関係を築き、職場内での存在感を高めていく。反対に、口数の少ない人は情報の共有から外れ、孤立しやすくなる。この違いは、昇進や評価だけでなく、職場で安心して働けるかどうかにも直結する。

では、どうすれば「聞く力」を取り戻せるのか。AIの利用が珍しくなくなってきた現代だからこそ、精神論ではなく、具体的対策を提案したい。

「聞くはチャンス、聞かぬはリスク」のすゝめ

まず、聞く力を見える形にする工夫が求められる。社内のチャットツールに「質問歓迎」と書かれた場をつくれば、若手社員も安心して聞けるようになる。こうした場は、社員同士のやり取りを促すものであり、AIの自動応答とは役割が異なる。質問の回数や内容を評価の対象にすることで、対話による貢献が見えるようになる。聞くこと自体が評価される仕組みを整えれば、抵抗感を減らすことができる。

AIを「聞く練習の相手」として使うのも有効だ。まず、AIに疑問をぶつけてみて、答えを得たうえで人に確認する。AIは人の代わりではなく、予習の場として使うべきだ。知識やスキルを整理するには役立つが、人は関係を築き、心を通わせる。それは人間だけに許された営みだ。AIに相談するときは、必ず人とも接点を持つよう職場全体で意識する必要がある。

人と一口に言っても、職場となると普段会話も交わしたこともないはるかに年上の人と会話せざるをえないこともある。そのようなときには、見知らぬ人との「対話を促す道具」としてAIを設計してみてはどうか。

情報を提供するだけでなく、「この話は誰にどう聞けばいいか」を提案できるようにすれば、人と対話するきっかけをつくれる。対話を求められた上司が、自分の失敗談や、助けを求めた経験を若手社員に話すと、彼らの不安は和らぐ。こうした関わりが、質問への抵抗感を減らし、聞く力の土台を築いていく。

聞く力は、個人の成長を促すだけでなく、職場全体の活性化にもつながる。「聞くはチャンス、聞かぬはリスク」である。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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