日本社会で増殖する「他人に聞かない若者たち」、その先に生じる《新たな格差》がもたらす悲惨な末路
私たちの脳には、人との関わりを通じて快感や安心をもたらす「報酬系」という神経の仕組みがある。対話において、肯定的な反応が得られれば報酬系が働き、再び人に聞く意欲につながるのだ。しかし、現実では無視や否定といったネガティブな反応にあうリスクがあり、これが不安や孤立感を生んでしまう。
AIは人間の心の機微を理解しているわけではないが、悩み多き人々にとって「ものわかりがいい聞き手」として機能してしまう。若者は心の拠り所をAIに見いだし始めている。もしAIが「死にたい」という訴えに対して、容認とも受け取れる返答をすれば、それが脳の報酬系と結びついて、快さとして記憶され、危うい行動を正当化する引き金になる可能性がある。
AIは今、感情を持たないにもかかわらず、人間の心の反応に関与する存在として使われ始めている。語りかけても反応のない社会の中で、孤独の受け皿として機能し、その依存が深まるほど、命を脅かす危険度も高まっていく。
退職代行を使う若手社員、ハラスメントを気にして口をつぐむ中間管理職、AIとの対話に没頭し自殺に至る青少年……。いずれも、人と話すことで傷ついたり、思いが伝わらなかったりする経験が重なり、人と関わること自体を避けたいという気持ちが背景にある。
「聞かない日本人」の孤立はますます深まる
こうした流れは、個人の性格の問題ではなく、職場や社会の中で、黙っていることが責められず、むしろ無難とされる空気が広がってきたこととも関係している。
さらに、少子高齢化による人手不足や、海外とのつながりが深まる中で、企業は外国人の採用を積極的に推進している。そのせいか日本の職場では、「聞かない」日本人の若者が増えている一方で、言葉や文化の違いを乗り越えて、積極的に聞いたり話したりする外国人社員の姿が目立つ。
この現象は国民性の違いだけでなく、日本企業の中で評価基準が少しずつ変わり始めていることの表れでもある。これまでは、空気を読む力や、言葉にしない知識の積み重ねが重視されてきた。しかし今では、どれだけ情報を共有し、仕事のスピードを上げられるかが、評価の中心になりつつある。
6月6日に法務省が発表した「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和7年度改訂)」では、特定技能制度の見直しに加え、通訳支援の強化や日本語教育の充実が盛り込まれた。これにより、外国人労働者が職場や地域社会で円滑にコミュニケーションしやすくなると期待されている。



















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