日本社会で増殖する「他人に聞かない若者たち」、その先に生じる《新たな格差》がもたらす悲惨な末路

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組織における知識創造は、個人の気づきや経験を他者と共有することで始まる。野中郁次郎氏・竹内弘高氏が提唱した「SECIモデル」では、暗黙知を形式知に変えるプロセスの出発点として、体験を共有して得た暗黙知を他者に移転させる「共同化(Socialization)」がある。これは言葉を通じた伝授が行われる前段階で、「聞くこと」によって引き起こされる。

そして、個人の知識(暗黙知)を図や文章で示すことで形式知に変換し他者と共有する「表出化(Externalization)」、表出された形式知を組み合わせることで新たな知識(新しいアイデアやシステム)を生み出す「結合化(Combination)」へ進展する。このプロセスでイノベーションが生まれることもある。最終的に、新たに得た形式知を実践し、体に染み込ませる「内面化(Internalization)」を実現する。

だが、「沈黙の職場」では共同化さえ起こらない。これでは、イノベーションの種が埋もれてしまう。変化の激しい現代においては、現場の末端で起こる微細な変化こそが、次の製品やサービスのヒントになる。沈黙は、その芽を摘む行為に等しい。

「沈黙する組織」がたどる悲しい末路

企業が競争優位を維持するためには、外部環境の変化を感知し、それに応じて組織の資源を再構築・再配置する能力が不可欠だ。経営学者デイヴィッド・ティースが提唱した「ダイナミック・ケイパビリティ」は、感知・捕捉・変革の3つのプロセスで構成される。

沈黙する組織は「感知」の能力が極度に低下する。市場の変化、顧客の潜在的ニーズ、競合の動きといった外部情報は、現場社員が顧客と行う会話の中に潜んでいるからだ。

これらの情報が組織で共有されずに終われば、経営層や中間管理職が変化を見誤る可能性が高くなる。結果として、戦略的意思決定の質と速度が低下し組織は硬直化する。

こうなると市場環境を「捕捉」し、「変革」することもできない。このような企業は着実に競争力を低下させていくことになる。

飲みニケーション
「飲みニケーション」も今は昔。職場で上司が部下を飲み会に誘うとパワハラと捉えられかねない(写真:kouta/PIXTA)

部下と上司の情報共有と聞けば、かつては「飲みニケーション」を思い浮かべたが、今は上司が部下を飲みに誘うこと自体がパワハラだと指摘されかねない。それだけに、職場での質疑応答がコミュニケーションを深めるうえでより重要性を増している。となれば、「聞かない」部下を持つことは、上司が情報不足に陥る危険性をはらんでいる。

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