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翌週の月曜日の朝、健人の携帯に電話がかかってきた。電話の相手は、王子警察署の宇田だった。一度、署まで来て欲しいという。
詐欺集団と戦って
警察署で、健人は宇田から簡単な説明を受けた。
「報道を見て知っているかもしれないが、匿名の情報提供があって、ある特殊詐欺グループが一掃された。サンライズタワーの家宅捜査で、田辺花子、つまり君のお婆さん名義の銀行カードが押収されている。今回の件は、たぶん特殊詐欺集団の中で仲間割れがあったんだろう。連中は他人同士で繋がっているから、仲間意識が薄い。金が絡んでいるから、簡単に裏切りも起きるしな。証拠品となる銀行カードは返却できない。でも銀行カードが入れられていた、これは返却できる」
宇田は、ポリ袋に入れられたポーチを健人の前に置いた。それは健人が、小学生のころに婆ちゃんにプレゼントした、あの花柄のポーチだった。
帰宅すると、ポーチを仏壇へ置いて線香を一本焚き、手を合わせた。これで婆ちゃんの無念も、少しは晴らされただろうか──。
そしてふいに万次郎の言葉を思い出す。
亡くなった婆さんのために詐欺集団と戦う孫というのは、なかなかいないのではないでしょうか。
父母は仕事に出ているので、居間には誰もいない。テーブルの上には、朝刊と折り込みチラシが無造作に置かれている。
健人はなんとなく、折り込みチラシの中から求人広告を手に取り、ぼんやりと眺める。
詐欺集団と戦うことに比べたら、社会で戦うことのほうが楽かもしれない、などと考えながら──。
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