やがて前方に、細長い塔のような藍色の建物が見えてきた。その建物を、健人は知っている。サンライズタワーだ。
ドローンはサンライズタワーへ向けて滑空し、建物の壁面にへばりついた。四本脚を動かして、壁を垂直に下降していく。
そしてある一室の窓ガラスで、動きを止めた。ガラスを研磨するような音が響いたのちに──。
ごとり。
窓ガラスには長方形の空洞ができていた。
ドローンはその空洞から室内へと侵入する。
カメラ越しに目が合う
健人は理解した。このカエルドローンは、半グレどものアジトである2803号室に忍び込み、オレオレ詐欺の証拠を持ち去ろうとしている。
証拠がないと動けないよ、呆れた宇田の顔を思い出す。逆に証拠があれば、婆ちゃんの仇を討てる。世界一旨いアップルパイを焼いてくれた、婆ちゃんの仇が討てる。
息を呑む。だとしたら絶対に半グレ連中に見つかってはならない。誰かに見つかれば、こんな小さなドローンなど簡単に踏み潰されてしまう。祈るような気持ちで映像を見つめた。
ドローンは窓際の日当たりの良い廊下を、ゆっくりと這っていく。前方のやや広い部屋へと向かって進んでいく。
さっきのごとりは、誰にも聞かれていないだろうか──。映像ではそれなりの音が響いた。でも現場ではたいした音ではなかったのだろうか。
と、通路の右手から、一人の住人がこちらを窺うように現れた。物音に気づいたのだ。
男と健人は、カメラ越しに目が合う。
坊主頭の人相の悪い男──、首謀者だ。
健人は奥歯を噛んで顔を歪(ゆが)めた。次の瞬間にもあの男はこちらへ突進してきて、ドローンを踏み潰すだろう。ドローンは車に轢かれたカエルのような残骸になるだろう。



















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