「おっさん、痴漢したよね」無実の男性を痴漢冤罪で陥れた22歳女性が背負わされた"前科" 『子供部屋同盟』3章①

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芥川賞作家✕東洋経済オンラインの「異色コラボ」連載小説!
「子供部屋おじさん」が、あなたの復讐、請け負います。
パワハラ、詐欺、痴漢冤罪(えんざい)、書店万引き――。裁かれぬ現代社会の悪を、人知れず断罪する者たちがいた。ダークウェブに潜む謎の復讐代行組織「子供部屋同盟」。
社会から疎外された「子供部屋おじさん」たちが、その特異なスキルを武器に、歪んだ正義を執行する。
芥川賞作家・高橋弘希が放つ痛快無比の世直しエンタメ『子供部屋同盟』より、第3章を4日に分けて毎日お届けします(今回は1日目)。

平凡で幸福な人生を奪われた「あの日」

あの女に対する憎悪だけは、どうやっても拭えなかった。

吉田直人は、少年期に取っ組み合いの喧嘩をしたこともなければ、父母への反抗もほとんどなかった。結婚してからも、夫婦喧嘩は数えるほどだ。しかしあの女だけは別だった。

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──私はあの女によって、平凡で幸福な人生を奪われたのだ。

あの日、直人はいつも通り、電車に揺られて会社へと向かっていた。土曜日の朝ゆえに、電車内はそれほど混み合ってはいない。直人はドア付近の壁に寄りかかって、早春の陽光を頬に受けつつ、窓の外の街並みを眺めていた。

直人は三十八歳の会社員で、社内で平均的な出世をして課長を務めていた。職場結婚をして、一昨年に娘の真奈(まな)が生まれ、つまりは平凡ゆえに幸福な人生を享受していた。今でこそ東京のマンション暮らしだが、生まれは長野の田舎で、両親は葡萄農園を営んでいる。

親父は腰を悪くしたらしく、家業を続けられるのもあと数年だろうな、などと弱音をもらしていた。吉田果樹園が閉業するのは寂しいが、これも時代の流れと諦めるしかない。

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