別にそれもかまわなかった。交番で無実を証明して、女を糾弾してやろうと思う。
交番での簡単な聴取後に、流れ作業的に警察署へ連行され、再び簡単な聴取後に、流れ作業的に留置場へとぶち込まれた。
直人は状況がまるで理解できなかった。留置場の檻の中で気づいたが、自分はあの女に腕をつかまれたとき、痴漢容疑で現行犯逮捕されていたのだ。
刑事に犯人と決めつけられ……
午後から取り調べが始まった。
直人はとにかく会社に連絡を入れたかった。現状だと無断欠勤になっているのではないだろうか。トミタ商事に勤めて十六年、無断欠勤など一度もしたことがない。
妻とも連絡を取りたかった。警察職員が自宅へ連絡したらしいが、どう説明したのかは分からない。妻も自分と同じように、まるで状況をのみこめていないだろう。しかし逮捕から数日は、たとえ家族でも連絡を取ることができないという。
取り調べ担当の中年刑事は、明らかにこちらを犯人と決めつけていた。
「ミニスカートの若い女を見て欲情したんだろう! 仕事のストレスが溜まっていたんじゃないか? 俺は何もしていない? 痴漢した奴はみんなそう言うんだよ!」
ときには唖然とするような口汚い言葉で追及してくる。
「女の尻を触った感触はどうだったんだ? 若い女だから張りがあったか? 下着の中にも手を入れたんだろう? 尻から局部にまで手を伸ばしたんじゃないか? いい加減に観念したらどうなんだ? 痴漢ってのはな、しょせんたいした罪じゃないんだ。おまえ初犯なんだろ? 認めちまえば、すぐに檻から出られるかもしれねぇぞ? おまえ幼い娘もいるんだってな。娘もきっと家で哀しんで泣いてるぞ? なぁ、俺もたかだか痴漢で時間使いたくないんだよ、そろそろ容疑を認めてくれや──」



















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