──これからニッケルメッキで西野AMの頭をかち割りますがよろしいでしょうか?
脳内ホウレンソウをすると、確実に新たなガソリンが給油された。
文鎮を強く握り締め、奥歯を噛みしめ、顔面を紅潮させる。
──そうだ、ぶっ殺してやる!
自身の「心の叫び」を聞いた瞬間
太一は心の叫びが、自身の耳に聞こえる気がした。
もう一度、同じ言葉を心の中で叫ぼうと思う。
その心の声が耳に聞こえたとき、俺はこのニッケルメッキの文鎮で西野の頭をかち割るだろう。
が、太一の耳に聞こえてきたのは、太一の心の声ではなかった。
その声は、窓の向こう側の夕景の街並みの彼方から聞こえてきた。
──こちらは、防災坂戸です。林さん宅のフレンチブルドッグが迷子になっています。体長三十センチほどの十四歳の雄で、毛の色は黒、ピンク色の首輪をしています。犬を見かけた場合は近寄らず、坂戸保健所までご連絡ください。繰り返します、こちらは防災坂戸です。市内で、林さん宅のフレンチブルドッグが迷子になっており……。
ほとんど無意識に、今も坂戸市内のどこかを徘徊しているだろうフレンチブルドッグを想像した。あてどなく夏の夕方の坂戸の街を徘徊するピンク色の首輪をした老犬──、文鎮を握り締めた手の平が、次第にゆるゆるになっていく。もうニッケルメッキを持ち上げるだけの力は、残されていない。
と、プリンターは快活な音を響かせて、用紙を吐き出し始めた。西野は途端に上機嫌になり、さっそくプリントを再開する。振り向いた西野は、窓際で立ち尽くしている太一に気づいた。
「なんや、佐藤、そんなとこに突っ立って。ノータリンからデクノボーになったか」
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