西野はこちらを見ずに、いいからおまえは草むしりやってろや、と苛立った声で言う。いえ、草むしりはもう終わりましたが、太一がどうにか言い返すと、西野は手元のクリアファイルを壁へと放り投げた。
「おまえは耳も悪いんか! ノータリン! いいから草むしりやってろや!」
太一は再び戸外へ出たが、もうむしる草などない。炎天下の庭をうろうろしたのちに、しゃがみ込んで、額から大量の汗を垂らしつつ、むしる草のない地面を見つめ、再び考えることをやめた。
どれだけの時間が過ぎただろう、ふと、背後に視線を感じて振り返る。営業所の窓の向こう、冷房の効いた屋内で、西野が社員を引き連れてこちらを見ている。
西野はニヤニヤと笑みを浮かべつつ、スマホのカメラを向けていた。動画の撮影をしているのだ。太一は慌てて向き直り、むしる草のない地面へと手を伸ばした。
そして背中にあの冷たい脂汗を滲(にじ)ませつつ、小さな土くれを指の腹で押し潰した。
社のコンプラ窓口に相談することも、ぼんやりと考えはした。しかし密告がもし西野に露呈すれば、奴の逆鱗に触れて状況はさらに悪化するだろう。なにせ西野は、埼玉西地区を統括するAMなのだ。コンプラ部に西野の息のかかった社員がいても不思議ではない。
合同懇親会
そんな折、埼玉西地区の営業職員を集めた合同懇親会が開かれた。参加者は三十名ほどで、川越駅近くの居酒屋の二階の座敷を貸し切って行なわれた。いわば西野とその配下たちの飲み会だ。
一応、営業所ごとに席が決められていたが、西野に挨拶にくる社員、媚を売る社員が、ひっきりなしに訪れる。
「いやはや西野AMの噂はかねがね聞いています」
「なんでも新座時代は契約を三割増しにしたとか」
「坂戸もこれで安泰でしょうなぁ」



















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