「アホンダラ! 俺が頼んだのはレーズンサンドじゃなくて、ルマンドやろが! 俺はレーズンが嫌いなんや! おまえは小学生でもできるお使いすらまともにできんのか!」
ルマンドは品切れだったので、代わりにレーズンサンドを買ったと告げる。
「また言い訳か! 母親の育て方が悪かったんちゃうんか? だから言い訳ばかりの他責人間に育ったんやないのか? そもそもなんで報告せんで、勝手にレーズンサンドでいいって判断するんや? おまえは社会人の基本たる“ホウレンソウ”もできんのか!」
太一は次第に訳が分からなくなってきた。「顧客との価格交渉は難航中であります、AM!」と報告する必要はあるだろうが、「ブルボンのルマンドは品切れであります、AM!」などと報告する必要はあるのだろうか。
と、方々から嘲笑するような内勤職員の声がかすかに聞こえた気がした。冷たい脂汗で、ワイシャツが背中へじっとり貼りついていく。一方で西野の怒りは未(いま)だおさまらず、仁王立ちで出入口を指差す。
「ルマンドや! 至急、ルマンド買ってくるんや!」
太一は慌てて営業所を飛び出していくのだった。
炎天下の“草むしり事件”
そして夏の盛り、決定的とも言える“草むしり事件”が起きる。
「佐藤、おまえにはな、指示待ちではない能動的な行動が必要や。なんもせんで金もらえると思うな。営業所の前庭の雑草が伸びてるやろ? 気づかへんかったか? 能動的な意識が欠けとるからや。また写経からやり直すか?」
炎天下、太一は軍手を嵌(は)めた手で、営業所の前庭の草をむしった。営業主任でありながら、ついには営業すらせずにやっていることは炎天下の草むしりだ。俺は草むしりをするために社会人になったのだろうか。しかし太一は途中から思考を停止して、ただ機械的に草をむしり続けた。
気づけば、前庭の草という草を綺麗にむしり取っていた。屋内へ戻ると、冷房が効いていて涼しい。西野に草むしりを終えたことを報告する。西野は電話を保留にした状態で、何やら慌ただしくクリアファイルのページを捲(めく)っていた。どうも契約上の不手際があったらしい。



















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