「なぜ僕は死んだのか…」不審死を遂げた動物たちの"声なき声"を聞く。僕が無償で"法獣医学"に関わるワケ――残酷な死の裏側から見えるもの

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読者のみなさんも、動物の不審な遺体を見つけたり、近所で気になる飼い方をされているペットを目にしたりするかもしれません。

そんなとき、まずはお住まいの地域の保健所や動物愛護センターなど、動物行政の窓口に相談してみてください。行政側で必要と判断されれば、調査や指導に入ったり、警察と連携したりすることになります。

また、目の前で明らかな虐待を目撃した場合は、まずは自身の安全を確保したうえで、ためらわずに警察に通報してほしいと思います。ネコの虐殺のような事件は、大きな犯罪の前兆となることもあります。

近年は、警察も動物の不審死を熱心に捜査しますし、防犯カメラの普及もあって「調べればわかる」ことが増えています。こうした取り組みの積み重ねによって、命を守られる動物も少しずつ多くなっています。それは、ひいては僕たちの社会を守ることにもつながっています。

動物の死因を検証しなければ…

獣医病理医が遺体を解剖するだけでは、動物の死因を明らかにすることができないことも少なくありません。

先ほど紹介したようなネコの中毒死の事例では、毒物検査が必要になりますが、国内では動物の毒物検査を受け入れてくれる検査機関はほとんどないのが現状です。

人為的な損壊か野生動物による損壊かの判断には、遺伝子解析も必要です。SFTSのような感染症事例では、微生物学の専門家の力も必要になります。また、動物の不審死事例で動物を解剖するときには、解剖前にCTやMRIを用いた画像検査もほぼ必須になります。

このように動物の死因を解明するためには、獣医病理医だけではなく、さまざまな専門分野の知識を結集する必要があるのです。

亡くなった動物の遺体を前にして、行き場のない悲しみを抱えている方が多くいらっしゃいます。また、動物の死因をきちんと検証しなければ、動物虐待や犯罪、重大な感染症や中毒の見逃しにつながるおそれもあります。僕が動物の病理解剖を続けているのは、死の検証をきちんとして、動物の声なき声をきちんと届けたいという思いがあるからです。

将来的には、各分野のスペシャリストを集めた「動物の死因究明センター」をつくりたいと考えています。現在はそのための体制整備を考えたり、協力してくれる専門家の方を少しずつ探したりしているところです。

中村 進一 獣医師、獣医病理学専門家

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なかむらしんいち / Shinichi Nakamura

1982年生まれ。大阪府出身。岡山理科大学獣医学部獣医学科講師。獣医師、博士(獣医学)、獣医病理学専門家、毒性病理学専門家。麻布大学獣医学部卒業、同大学院博士課程修了。京都市役所、株式会社栄養・病理学研究所を経て、2022年4月より現職。イカやヒトデからアフリカゾウまで、依頼があればどんな動物でも病理解剖、病理診断している。著書に『獣医病理学者が語る 動物のからだと病気』(緑書房,2022)。

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大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者

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おおたに ともみち / Tomomichi Ohtani

1982年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。同博士課程中退。出版社勤務を経て2015年2月にスタジオ大四畳半を設立し、現在に至る。農学・生命科学・理科教育・食などの分野の難解な事柄をわかりやすく伝えるサイエンスライターとして活動。主に書籍の企画・執筆・編集を行っている。著書に『増補版寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)、『ウシのげっぷを退治しろ』(旬報社)など。

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