平均して月に10件程度の依頼を受けていますが、20件のうち1件ぐらいは、警察や行政(保健所・動物愛護センター)からの依頼で、動物の「不審死体」の検証を行っています。
その動物の死に事件性はあるのか、以前ご紹介したSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のようにその地域になんらかの感染症があるのか(関連記事:まるで「粗挽き黒コショウ」動物の亡骸に潜む生物)、中毒が発生しているのではないか、なんらかの事故ではないのか、動物虐待や動物病院での獣医療過誤ではないのか……。
そうした可能性を検証し、法律的な視点で社会的な判断に役立てる――それが、「法獣医学」と呼ばれる学問分野です。人間でいうところの「法医学」、その動物版ですね。
警察からの依頼といっても、僕が遺体の発見現場に行くことはほとんどありません。その動物が生前に関係していた人間に直接事情を聴取することもありませんし、周辺情報も断片的にしか知りません。
そして多くの場合、僕が遺体の検死の結果を報告したあと、事件がどうなったのか――そもそも事件だったのか、犯人は捕まったのか、動機はなんだったのか、といったことを知らされることもありません。
僕が向き合うのは、解剖台の上に横たわる動物の亡骸と、その体に刻まれた病変だけです。
公園で不審死した6頭のネコ
あるとき、公園でネコの不審死体が6頭見つかり、警察から検死の依頼がありました。現場付近には餌の入った缶詰が落ちており、その餌は「青かった」といいます。
遺体を解剖してみると、どのネコの胃にも青い餌が入っており、餌と胃内容物を分析した結果、メソミルという殺虫剤の成分が検出されました。
メソミルは農薬としてごく一般的に使われている薬剤ですが、動物が摂取すると中毒症状を起こします。そのため、誤飲しないよう青く着色されているのですね。おそらく何者かが意図的に、ネコたちに農薬を混入させた餌を与え、中毒死させたのでしょう。


















