クマ被害撲滅へ…山から人里への"移動ルート"を断ち切り、本来の生息域に押し戻す「ゾーニング」という"有力防衛策"【専門家に聞く】
「これまでクマによる被害や捕獲頭数が過去最高だったのは23年でしたが、今年は9月末の段階でその記録を超えました。また、被害の半分以上は、23年と同様に秋田県、岩手県など北東北で起こっています」と、山﨑さんは話す。
注目したいのは、今年は特に集落や市街地での被害が多い、という点だ。
朝日新聞が行った集計によると、今年4月から10月22日までにクマにより死傷した172人中114人、割合にして66%が市街地などの人里で被害に遭っていた。
人間に脅威を感じないクマ
「クマの目撃数や人的被害が増えている理由の1つは、“集落に執着するクマ”が増えているためだと推測されます。人の住む地域のほうがエサを得やすく暮らしやすい。しかも人馴れして、私たち人間に脅威を感じなくなってしまったのでしょう」(山﨑さん)
東京農工大学大学院連合博士(農学)。ザンビア共和国生態調査官、東京都高尾自然科学博物館学芸員、茨城県自然博物館首席学芸員などを経て、現職。主な取り組みは、奥多摩山地、日光足尾山地、奥羽山地でのツキノワグマの行動生態研究、ロシア沿海州でのツキノワグマとヒグマの種間関係研究(写真:山﨑さん提供)
昔は全国的に狩猟が盛んで、山の近くの集落にも大勢の人が住んでいた。万が一クマが出ても、銃などで追い払うことができた。
ところが、過疎化が進んだ今、集落と山の境目が曖昧になり、クマの生息範囲や行動範囲が広がっていった。必ずしも山の中(奥山)の環境が変わったため、クマが人里に出てくるようになったわけではないという。
「奥山の環境は1970年代ごろからほぼ変わらず、針葉樹人工林のスギやヒノキが多いまま。一方で、山と集落の間には実を付ける広葉樹や、クマが身を隠せる草むらが増え、クマが集落や市街地へ身を隠しながら移動するルートになっているのです」(山﨑さん)
さらに、高齢化や過疎化によって果樹や畑の管理が行き届きにくくなり、クマを引き寄せる原因となっていることも理由の1つだ。
「こうした複合的な理由によって、クマが集落や市街地へと出てくるようになってしまった。ただ、この状況は最近になって始まったことではなく、2000年ごろからすでに問題になっていました」と、山﨑さんは打ち明ける。


















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