北朝鮮、農業強化で食糧増産に走る 全国にモデル農場を置き、ノウハウを拡大

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農場を後にしてから、同じ平壌郊外にある、平壌野菜科学研究所を訪問。ここは2007年、既存の農場に水耕栽培の研究施設が併設されたのを皮切りに、2012年には大規模温室が増築された。栽培面積は40万平方メートルという、大規模な温室が広がっている。

将泉野菜専門協同農場と同様に、温室内ではキュウリやトマト、トウガラシなどがしっかりと実をつけていた。温室内では、他国から入手した種子の試験栽培をしており、日本産の野菜も栽培されている。この研究所は生産単位であり、農場員が施設内でせわしく働いている。

ここでも圃田担当責任制を尋ねると「生産量は3割増」(水耕温室栽培研究室のシム・ジョンヒョク室長)と成果を誇った。

帰国後、2施設の写真や動画を日本の農業専門家らに見てもらったが、いずれも生育は順調との見方だ。「作物に水・栄養不足は見られない。温室の面積が日本と比べ広く、病害虫の発生率が高まるが、北朝鮮の気候は日本より寒冷なので、広くてもさほど心配しなくていいのかもしれない」、とのことだった。

今年の生産は前年レベル

社会主義諸国の崩壊と、洪水など大規模な自然災害によって、1990年代後半の北朝鮮は、飢餓が発生するほどの困難を経験した。そのせいなのか、北朝鮮=「経済不振・食糧難」というイメージが、今でも日本では強い。

現在の北朝鮮では、主食のコメとトウモロコシの生産(穀物生産)は増加傾向にあるものの、自給ラインとされる穀物生産量550万〜600万トンの水準にはまだ届いていない。朝鮮社会科学院経済研究所の朴成哲(パクソンチョル)・工業経営室長は「2013年の穀物生産量は566万トン(精穀基準)、2014年は干ばつなど自然災害の影響もあり、2013年から若干減少した」と分析する。今年の生産量は前年と同レベルと見ているようだ。

一方で2010年以降は、穀物生産の回復に加えて、加工食品の輸入や自国生産が本格化。首都・平壌を中心に食生活がかなり向上し、市民の嗜好も多様化している。野菜などの副食物の生産に力を入れ始めたのも、このためだ。

「穀物生産量が400万トンを超えれば、北朝鮮では餓死者は発生しない」と韓国・国民大学のチョン・チャンヒョン教授は指摘する。国家による配給は減ったが、その分、市場を通じての供給が十分に代替している。市場での食糧価格はこの1〜2年間、安定しており、「食糧が行き渡っている証拠」(チョン教授)なのだろう。

国家による農業分野へのインフラ投資も拡大し、圃田担当責任制などの制度改革も動き始めた。そうしたモデルケースは北朝鮮全土に広がりつつあるが、成果がきちんと上がるかは、まだ時間を置いて見る必要がありそうだ。

「週刊東洋経済」2015年11月14日号<9日発売>「核心リポート06」を転載)

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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