「助けて」生活困窮者の最後の砦、大阪・西成から始まった居住支援。どんな人の住まい探しも断らず経営面での成果も。不動産会社の挑戦
しかし、「住まいを提供するだけでは居住支援は終わらない」と坂本さんは話します。
生活支援機構ALLが力を入れているのは、入居した後の伴走型生活支援です。生活が苦しい人には食料支援などをして本来、食費にかかる分のお金を、家賃を含む生活費に充てられるようにします。
入居後も支援が必要な人の住まいには、生活支援機構ALLの相談員が定期的に訪問したり、不動産会社ロキの社員も管理物件の見回り業務を兼ねて訪ねたりして、入居者の孤立を防ぎます。
「困ったことがあればいつでも相談できる環境を整えることで、入居者は社会との接点を保てるのです。居住支援とは住まいを提供するだけでなく、入居してから本当の支援が始まると考えています。そして物質的な支援の後に必要なのは、心の支援。一番重要なのは『孤独にさせない』ことです。体が健康で物資が足りていたとしても、孤独に苦しむ人は大勢います」

ロキが住まいに困る人に提供している物件は、信頼できる10名ほどのオーナーから物件の管理を受託している約1000室と自社で所有している物件約240室。家賃債務保証会社の利用を必須としていますが、「入居した後は知らない」では、どの保証会社もオーナーも信用してくれません。
「オーナーさん、家賃債務保証会社、行政や専門家とも連携しなければ、支援は成り立ちません。僕たちも一緒になって解決していく姿勢を大事にしています。日々、入居者の話を聞いて、時には諭したり、何かトラブルが起こった場合には近隣に謝罪に行ったりするなど、起こる事象に対して僕たちは逃げずにきちんと向き合います」
夜逃げ、近隣トラブル……きれいごとではない
空室を抱えるオーナーにとっては、たとえ事情がある人でも誰かに部屋を貸せることは、利のあることです。しかし、坂本さんは、居住支援においては「きれいごとではなく、家賃滞納や夜逃げ、近隣トラブル……日々、想像を超えるような、いろいろなことが起こる」と言います。
「例えば、生活保護を受けている間は行政から家賃相当額の住宅扶助費を直接オーナーさんに支払う『代理納付』制度を活用することが可能ですが、社会復帰を果たして十分な収入を得られるようになれば、生活保護は打ち切られます。
実際にあった話で、とある入居者は『賃貸住宅に住むためには、家賃を支払わなければならない』という概念自体を持っておらず、仕事を得て生活保護が支給されなくなった途端、全く家賃が支払われなくなったのです。最終的にオーナーさんは裁判を起こして、物件の管理を任されていた当社でも裁判費用を半分負担しました」
