【産業天気図・鉄鋼】高炉中心に好天持続だが、鉄スクラップ高騰で電炉には分厚い雲

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07年度の鉄鋼業界は、全体的には06年度からの好天を維持する見込みだ。だが、鉄スクラップを原料とする電炉メーカーにとっては、分厚い雲が垂れ込める展開が予想される。
 日本鉄鋼連盟によると、07年度の国内粗鋼生産は前期比1.9%減の1億1550万トンとなる見通し。史上2番目の生産量を記録した前期ほどではないものの、引き続き高水準を維持する、ということだ。ただ、今年度は前期に増強した高炉各社の設備がフル稼働する。足元の4−6月だけ見ても、鉄鋼連盟の需要見通し(2945万トン)に対して、実際の生産計画は50万トン近く上回っている。このままの状態が続けば、今年度の粗鋼生産は前期並みの高水準を維持する可能性もある。
 こうした状況のもと、高炉各社は「晴れ」の展開が続きそうだ。前出の増強設備のほとんどは、好採算の高級鋼に対応したもの。新日本製鉄<5401.東証>の450億円、JFEホールディングス<5411.東証>の320億円をはじめとして、各社とも大幅な増産効果(増益要因)を期待している。
 ただ、今回は前回(3カ月前)の「快晴」から「晴れ」に天気予測を下げた。【1】減価償却方法の変更に伴う負担増、【2】非鉄原料の在庫評価益剥落という2つの一過性の減益要因が前回の予想以上に今期業績に影響を及ぼしそうだからだ。新日鉄、JFEの2大メーカーは、これらの一過性の減益要因(【1】+【2】)をそれぞれ710億円、560億円と見込んでいるが、増産と価格改善効果で吸収して経常増益となる見通し。だが、住友金属工業<5405.東証>(一過性影響見込み:230億円)、神戸製鋼所<5406.東証>(同310億円)、日新製鋼<5407.東証>(同85億円)の3社は、上記の負担増が重く、経常減益となる見通しだ。とはいえ、各社とも一過性の要因を除けば実質的には好調な業況を持続するだろう。
 対して、電炉各社はよくて横ばい、製品値上げの進展次第では減益となる企業も出てきそうだ。電炉メーカーが原料に使う鉄スクラップは、世界的な需要増加に伴って価格が高騰。トン当たり2万8000円だった前期の平均価格から、足元は3万4000円前後まで上昇している。各社とも製品価格への転嫁を急いでいるが、今後もスクラップ価格は高止まる気配が強く、追いつくのは早くて下期に入ってからだろう。加えて、普通鋼電炉にとってはアジア勢との競争の激化が、特殊鋼電炉にとっては副原料となる非鉄金属の価格高騰が、それぞれ不安要因として重くのしかかる。
 また、電炉メーカーは現在、国内に40社近くがひしめき合う状況で、設備過多が指摘されている。一方で、国内の電炉メーカーが持つ高度な技術に対しては、海外メーカーからの関心も高い。今年5月には、電炉大手の共英製鋼<5440.東証>と合同製鉄<5410.東証>が資本提携を発表。世界的な業界再編と相まって、国内の電炉再編が本格化する機運がますます高まりそうだ。 
【猪澤顕明記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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