「小泉八雲」が残した150年前の料理本に現代人が圧倒される理由。朝ドラ「ばけばけ」で注目の八雲、来日前に記したユーモア満点のレシピとは?
結局、読者は本書を通じて、もしかしたらあの時代、あの場所で暮らしていたかもしれないわたしたちの姿を見るのだ。
現代の日本人からすると個性的、ことによると不思議とさえ見えるハーンの生き方も含めて、こんな暮らしもある、こんな人生もある、という当たり前の事実を突きつけられるのだ。……と何もわざわざ、このような教養小説めいた読み方をしなくてもよいのだが、少なくとも訳者はこうした深読みで翻訳作業を楽しんだ。
本書をクレオール料理の手引き書として利用する向きにも、ありったけの想像力を働かせることをおすすめしたい。いや、そうしないと作れない。先述のとおり、原文には説明が曖昧な部分が続出したため、訳出時に完成品をイメージしつつ、常識で補える部分は補った。
ただ、この不完全さもまた本書の魅力と考え、必要以上に補うことは避けた。あとは読者の想像力におまかせしたい。
ユニークなクレオール料理の様子
同書に掲載されている料理の紹介から一部を掲載します。
クラッカーを数枚、半分に割り、それぞれ中央に干しぶどうをはさむ。そのまま布に包み、しっかりと口を縛って一五分間ゆでる。バター、ワイン、砂糖、ナツメグで濃いめのソースを作って添える。
シギ一四羽の羽毛、内臓などを取り除く。少々焦げ目をつけた詰め物生地にトリュフ二個を刻んで加え、シギに詰める。
詰め物をするときはシギの皮を丁寧にうしろに折り曲げておき、詰め終えたらできるだけ自然な姿に見えるよう元どおりかぶせておくこと。
中にベーコンも入れ、すべて詰め終えたらフライパンに並べる。火にかけている間に皮が縮まないよう、フライパンにはできるだけたくさんのシギを一緒に並べること。
シギの上にも細長く切ったベーコンをのせておく。さらにスープストック少々を加えて湿り気をつけ、バターを塗った紙をふたとしてかぶせる。これをオーブンに入れて四〇分間焼く。
焼きあがったら汁気を切り、下のほうが汚ければ軽く包丁でととのえる。軽く焦げ目をつけた詰め物を小さな山にして皿に盛り、シギの胸を上にして並べ、凍らせる、いや、グレーズする(注1)。
そして皿のままオーブンに数分間入れて温めておく。
シギの頭から皮と眼を取り除き、くちばし一つ一つに小さめのトリュフ一個をくわえさせ、二羽の胴体の間に頭を一つずつ置く。つけあわせとして雄鶏のトサカ、帆立貝、ガチョウのレバー、マッシュルームをマデイラソース(注2)に加えて煮込む。
煮詰めて鳥のにおいをしみ込ませたら、つけあわせを皿のまわりに飾る。シギの身も頭もグレーズし、ソースは別にして添える。すべてあつあつのまま食卓へ。
(注1)グレーズ(フランス語ではglacer)には「肉に肉汁をかけて照りをつける」という意味とともに「凍らせる」という意味もあり、二つをひっかけてしゃれている。
(注2)小タマネギをバターで炒めて焼き色をつけて取り出し、そこに小麦粉を加えてルーを作り、ブイヨンを注ぎ、マデイラワインとマッシュルームを加え、塩、こしょうをふったうえでタマネギを戻して作るソース。
ザリガニを湯通しし、肉の部分を取り出してすり鉢で細かくなるまで擂する。ザリガニは五〇匹ほどが適当である。
ここに牛乳に浸したパン(ザリガニの分量の三分の一程度)、バター四分の一ポンド、塩少々、タイム一束、セージ二枚、ニンニク一かけ、みじん切りにしたタマネギ一個分を加える。
ザリガニとよく練り合わせ、一〇分間火にかける。固まらないように念入りにかき混ぜること。
ザリガニの頭をよく洗い、濃い塩水に数秒漬けてから水を切る。この頭に鍋の中の肉を詰め、全体に小麦粉をまぶしたら、明るいキツネ色になるまで炒める。
シチュー鍋を弱火にかけ、ラードまたはバターを小さじ三、ハムまたはベーコンを一枚、みじん切りタマネギを二個分入れる。そこに小麦粉を振り入れ、脂を吸収させたら、一パイント半の熱湯(ビーフストックだとなおよい)を注ぐ。
ここにタイム一束、ベイリーフ一枚を入れ、塩、こしょうをふる。半時間ほど弱火で熱したら、炒めたザリガニの頭を入れ、一五分煮る。米と一緒に食卓に出す。
(編集部注)※一ポンド=約454グラム、一パイント=約0.47リットル
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